調査レポート・コラム

人事部門が取り組む、チームパフォーマンス向上支援

【連載】チームパフォーマンスを高めるマネジメント(7/7)

チームパフォーマンスが業績を左右する

今や、仕事のほとんどはチームで行われ、8割以上の仕事がチームで行われているとも言われます。チームパフォーマンスが、企業業績において大きな影響力を持っていると言えるでしょう。。実際、チームで仕事をすることは、非常に効果が高いものです。お互いの強みを活かし、弱みを補完し、目的に向けて連携して仕事を進めれば、一人では成し得ないことを実現できますし、アイデアも創発されますし、生産性も上がります。チームをどう機能させるかは重要な経営テーマと言えます。

ところが、従業員に「あなたはチームで仕事をしていますか?」と質問してみると、意外なほど肯定的な回答が少ないものです。チームとして仕事をしている“実感”がない従業員が少なくないのです。どうすれば「チーム」となるのでしょうか。共に仕事をしている実感が必要ですし、目標の共有やノウハウ交換、相互アドバイスなどによってただの人の集まりからチームとなるのです。この方法論を提供していくことが、人事部門に求められています。

リーダー育成で伝えるべきこと

チームパフォーマンスを高めるには、チームの成果や課題をメンバーが主体者として捉えることが重要です。そのためには、管理する側とされる側、上司と部下といった分断の関係性に陥らず、チームにおいてはパートナーの関係を作ることを基本認識としたいところです。

リーダーへの研修では、この基本認識を伝えるとともに、リーダーの新たな前提とチームパフォーマンスを高めるマインドセットをしっかり伝えていただきたいと思います。新たな前提は第1回で解説しましたが、「リーダーにも分からないことがある、間違うこともある、助けが必要なこともある」といったことです。

マインドセットは、第5回で解説した「目的志向」「前向きさ」「メンバー信頼」です。ただ、これらを伝えることは簡単ですが、納得させたり、腹落ちさせるのは、簡単ではありません。なぜなら、これらは多くのリーダーにとって、今までの考えや認識を変える必要がある「適応を要する課題(適応課題)」だからです。

変化への抵抗に対処する

ファイフェッツは、課題を技術的課題と適応課題に分類しています。技術的課題とは、技術によって解決することが可能な課題であり、適応課題とは本人の信念や価値観、思考などを変えないと解決できない課題です。

例えば、車の縦列駐車ができないのは技術的課題です。運転技術を磨いたり、最近ではアシスト機能などを使えば、技術的に解決できます。ここに価値観や思想・信条などはまず関係ありませんね。

では、ここ最近で一気に広がったテレワークやオンライン会議はどうでしょうか。確かに技術的ハードルは多少ありますが、多くの人が「やってみたら意外と簡単だった」というように、それほど高いハードルではありません。つまり、テレワークやオンライン会議は、技術的に解決するのはそれほど難しくないと言えます。しかし、やっぱり「対面じゃなきゃ、本当の話はできない」といった考えから、対面にこだわる人もいます。対面にこだわること自体は問題ではないですが、もし、会社としてテレワークにかじを切るということであれば、このこだわりは適応課題だと言えます。

このように、一見すると技術的課題に見えるようなことでも、実は適応を要する課題だというケースは少なくありません。

上記のようなリーダーとしての新たなマインドセットは、「理屈ではわかるけど、なかなか受け入れられない」といったことが容易に想像できるのではないでしょうか。新たな前提やマインドセットは、技術で解決することはできません。本人が受け入れるしかないので、適応を要する「適応課題」に分類されるのです。

適応課題の根底にあるのは、不安、恐れ、喪失感などです。そのため、適応課題に直面すると、反発や犯行という形で現れることが多くなります。そのため、抵抗勢力というれっているを張られてしまうことが少なくありません。しかし、抵抗しているわけではなく、不安や怖れ、喪失感などから、事態の変化に抵抗できていないだけなのです。それにもかかわらず、抵抗勢力とレッテルを張り、「変われないあなたがダメなんだ!」といったところで全く効果はありませんし、むしろ反発が大きくなるだけです。本人にとっても気の毒です。

適応課題に対処するためには、まず不安、恐れ、喪失感などの感情に共感を示し、変わろうと思ったところでそっと背中を押すことがポイントになります。「今までのやり方では通用しない」とか「もうそんな時代じゃない」といった言葉も禁句です。本人のキャリアや努力の否定につながってしまい、結局行動の改善につながりません。また、適応課題に技術的な解決策を提示すると、問題がこじれることが多いことにも注意が必要です。

以上を踏まえ、管理職やリーダーのマインドセットを変えていくためには、「不安や怖れに共感を示す」「愚痴を出す」「自分で気づく」場の提供を提供することがポイントです。今までどうだったかは追及せず、研修の機会などを使って、次のようなグループワークを実施することをお勧めします。

①自分のチームは主体的行動を発揮しきれているか考える。(恐らく、絶対的な自信がある人はわずか)
②チームパフォーマンスは心理要因に強い影響を受けることを解説。
③メンバーが「やろう」と思えるために、「自分ができることは何か」を意見交換。
④新たな前提がチームに一体感をもたらすという考えについて意見交換。(前提を変える必要があるとは伝えない)
⑤「目的志向」「前向きさ」「メンバー信頼」についての解説と意見交換。
⑥これから自分が取り組むことの発表。

ポイントは、変わらなければならないと「伝える」のではなく、「感じる」「気づく」ように支援することです。適応課題を乗り越えるに、「色々あるけど、自分も変わっていかないといけないな」と感じてもえるようにしたいところです。働き方改革へのベテラン社員の反発、業務改革への反発なども、まさに適応課題の典型です。人事は組織に起きる課題が技術的課題なのか適応課題なのかを見極め、適応課題に対処する力を磨いていく必要があるでしょう。

引き出し型リーダーシップのカギは「問い」

チームパフォーマンスを高めるリーダーには引き出し型マネジメントが欠かせません。引き出し型マネジメントは、端的に言えば、「問いのマネジメント」と言えます。

よく「お前は何がしたいんだ!?」を問いと勘違いする人がいますが、これは糾弾です。引き出し型マネジメントの問いは、本人の考えや意見を引き出すものです。「あなたができることは何か?」「あなたのアイデアを加えるとすれば何があるか?」など、自分が考えなければならないという意識を持たせ、しかもその考えをリーダーが求めているという姿勢を示すことです。主語は「あなた」、質問は「未来形」としましょう。

チームメンバーの当事者意識を高める

チームパフォーマンスを高めるためには、メンバーが「自分もチームに影響を与えている」という当事者意識を持つ必要があります。リーダーのマネジメントによってそこに気づかせていくことも大事ですが、人事部としても現場のパフォーマンス支援として、リーダーのマネジメント支援として、チームメンバーの当事者意識を高める支援が期待されます。

その方法の一つとして、自分の影響力に気付かせる研修が効果的です。当社では「無自覚的にチームに負の影響を与えている中堅社員に気づきを与える研修をしたい」という依頼をいただくことも多いのですが、研修の流れは次の質問について個人で考えてもらい、グループワークで共有するという流れを繰り返しています。

①自分は他のメンバーからどのように見られていると思うか?
②自分はチームにどのような影響を与えていると思うか?
③チームに良い影響を与えるために心がけていることは何か?
④チームに良い影響を与えるためにこれから何をしていくか?

あくまで問いが自分に向いてくる場を提供することが重要です。

チームを支援する

さらに、人事部がチーム作り自体を支援できるようになれば最高です。チームパフォーマンス診断の結果を踏まえて、人事部社員がファシリテートやコーディネートの役割を担うということです。この方法については、前回「チームの状態を可視化し、メンバーが同時にそれを共有し、意見交換する」方法を解説したので、参考にしていただければと思います。

忙しくてチームミーティングをする時間が取れないという声もありますが、当社が支援している事例では、チームパフォーマンス診断の結果を事前に配布し、「チームをより良くするために自分ができること」をあらかじめまとめてきてもらえば、20分程度の時間でも実施可能です。むしろ、時間の長さよりも頻度が大事です。チームは常に変化します。年に1回、長時間検討するよりも、毎月や隔月程度でこまめにチーム状態を可視化し、メンバーで前向きな意見交換をするほうが効果的です。

よく、何をすればチームパフォーマンスが上がるかと質問されることがありますが、一律の制度的アプローチはあまり効果を期待できません。例えば、チームに懇親会費を支給しても、同じ企業の中ですら、親密さが上がるチームも上がらないチームが生まれます。重要なことは、チームが自分たちに必要なことを自分たちで考えられるようにすることです。チームの中で懇親の場が必要だとなれば、すればよいのです。

継続的に自分たちのチームパフォーマンスを確認・検討しているチームのほとんどが、チームパフォーマンスを向上させています。人事部門はこのような場の提供と運営の支援を行い、チームパフォーマンスの高いチームを数多く生み出していただきたいと思います。

チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第1回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第2回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第3回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第4回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第5回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第6回はこちら

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株式会社日本経営
取締役 人事コンサルタント 橋本竜也

1999年に入社後、一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チーム診断の必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究過程や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。


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