チームパフォーマンスを高めるカギ
成果をあげるチームを作るために
【連載】チームパフォーマンスを高めるマネジメント(1/7)
トピック
1.チームパフォーマンス重視の時代
2.個の力の合計が、チームパフォーマンスにならない
3.個人のモチベーション支援の限界
4.パフォーマンスを発揮しきれているチームは30%
5.リーダーに対する前提を変える
6.チームパフォーマンスを高めるカギ
1.チームパフォーマンス重視の時代
今や多くの仕事がチーム単位で進めることが主流となっています。例えば個々の営業マンのスキルに依存するイメージがある営業においてさえも、今では情報やノウハウを共有し、連携して組織的に行動しなければ、営業機会を失ったり、期待した成果につながらないといったことが少なくありません。まさに、チーム力の差が、企業競争力の差になる時代と言えるでしょう。こうしたことから、これまで以上にチーム力に注目し、それを高めることに力を注いでいく必要があります。
では、うまく機能しているチームでは、メンバーがどのように行動していると想像されるでしょうか。
・よく相談し合っている
・遠慮せずに意見を交わしている
・ノウハウを積極的に共有している
・メンバー同士が切磋琢磨している
こうしたことが思い浮かぶのではないでしょうか。ここで例示したような行動は、“チームとして”の成果の実現に向けて、メンバーが“主体的に”行動している状態だと言えます。
チーム力とは、こうしたメンバーの主体的行動の発揮度合いです。メンバーそれぞれの主体的行動が最大限に発揮されているチームは、チームパフォーマンスが高いと言うことができます。しかしながら、チームパフォーマンスの高いチームを実現することに否定的ない人はほとんどいないものの、実現するのが困難であるということが現実です。そこで、メンバー一人ひとりの主体的行動を引き出し、パフォーマンスの高いチームを実現するためにどのようなマネジメントが効果的であるかをお伝えしていくことが、この連載の趣旨です。
2.個の力の合計が、チームパフォーマンスの高さにならない
チームパフォーマンス向上のためのマネジメントが重要なのは、主体的行動の発揮度合いが高いメンバーを集めても、必ずしもパフォーマンスが高いチームにはならないからです。
「研修で動機付けたが部署に戻ったら今まで通り受け身的だった」とか「一人ひとりに話を聞くと誰もが前向きだが、会議になるとみんな下を向いてしまう」とか「力のある社員を異動させたが、異動先では力を発揮できていない」といった経験はないでしょうか。個人の行動は、チームの雰囲気やメンバー間の関係性に影響を受けるため、個人の主体的行動の総和が、チームパフォーマンスの高さにはならないのです。だから、個人パフォーマンスの最大化のために一人ひとりのモチベーション向上などに取り組んだとしても、それを活かすチームとしての土壌がなければ、結局チームとしてのパフォーマンスは上がらないのです。例えば、「前向きさ」は、チーム全体の雰囲気に大きな影響を受けることが当社の研究で検証できています。例えば、どんなに前向きな人でもチームが全体的にネガティブな発言が多かったりすると、しばらくすると前向きさを失うといったことです。逆もしかりで、少々ネガティブ思考だったとしても、チーム全体がポジティブであれば、徐々にポジティブな考え方をするようになっていきます。このような事例は、わりとイメージがわくのではないでしょうか。
3.個人のモチベーション支援の限界
これまでHRM領域においては、個別面談(1on1)とか、褒め・承認とか、レジリエンスとか、コーチングなど、個人のモチベーション支援が中心に行われてきました。こうしたことは非常に効果的ですが、前述の通り、個人のモチベーション向上を図っても、チームとして機能するとは限らないことに加え、チームマネジメントを考えると、上司と部下の一対一の関係だけが強化されてしまうという課題があります。
例えば、本音で話をすることが大事だとします。上司と部下の一対一の関係を強化すると「この上司になら本音が言える」という関係が作られます。しかし、チームという単位で考えると「このチームでなら本音が言える」ということにはなりません。結局、どちらも大事なのですが、意識してチームマネジメントに取り組まなければ、上司との関係だけが強化されてしまい、場合によっては上司に対する依存的な関係が強化されてしまうのです。
HRMの領域においては、このように個人のモチベーション向上ということに対して、近年非常に多くの取り組みがなされてきました。一方で従業員満足度やエンゲージメントという分野も非常に取り組みが強化されてきましたが、これらは会社全体といった組織全体の取り組みと言えます。ここでお伝えしているチームマネジメントというのは、個人と組織の中間あたり、リーダーがマネジメントする単位を指します。この部分の研究や取り組みは、HRMの領域においてはまだこれからの分野だと言えますが、これまで述べてきたとおり非常に重要です。
個人のモチベーションを最大限に発揮させるためにも、チームマネジメントは欠かせません。そのポイントをお伝えしていければと思います。
4.パフォーマンスを発揮しきれているチームは30%
当社ではメンバーのアンケートによりチームパフォーマンスを見える化するWebツール「NaviLight(ナビライト)」を提供しています。これまでにこのNaviLightを使ってチームパフォーマンスの診断をしたチームのうち、チームパフォーマンスを最大限に発揮しているチームは、およそ30%しかないのが現実です。これは、チームマネジメントがいかに難しいかを表しているとも言えます。悪くはないけど、良くもない、というチームが非常に多くなっています。そして、このストレスの多くは、リーダーたる管理職が強く受けているのです。
チームがまとまらない、部下がどこか元気がない、成果が上がらないなど、漠然としたチームのまずさを感じながらも、どうしてよいかわからない。会社からはチームをまとめ、成果を上げることを求められ、部下からは良き上司であることを求められる。環境要因としては、働き方改革、価値観の多様化、人手不足などがチームマネジメントを困難にしています。まさにリーダー受難の時代と言えるのではないでしょうか。こんな状態を放置していたら、リーダーは疲弊しきってしまい、さらには退職やメンタル不調にもつながってしまいかねません。当社ではリーダーのマネジメントの助けになるツールやスキルを提供したいと強く思っています。
5.リーダーに対する“前提”を変える
リーダー受難の時代を乗り越えるためにまず提案したいのは、リーダーに対する“前提”を変えるということです。これは、リーダー自身が前提としているという面と、組織やメンバーがリーダーに期待しているという面のどちらにも共通します。それは、
・リーダーは答えを知っている
・リーダーが解決策を考えなければならない
・失敗は許されない
・価値観を一致させなければならない
といったことです。リーダーにだってわからないことがある、苦手なことがある、失敗することもある、このように前提を変えることが、パフォーマンスの高いチーム作りにおいては重要です。なぜなら、上記のような前提が知らず知らずのうちにメンバーの主体性を奪ってしまっているからです。リーダーに過度に依存してしまい、チームの課題を評論家的に見てしまう。
成果につながる戦略がある程度明確な時代は、管理と徹底のマネジメントでメンバーに“やらせきる”ことで成果をあげることができました。しかし、今は先の見通しが立てにくいし、不測の変化も多く、市場環境も激しく動きます。リーダーはメンバーの主体的行動を引き出し、力を活かせなければ、成果を上げられないのではないでしょうか。
メンバーの主体的行動を引き出し、チームとして一体感をもって取り組むためには、メンバーの意識を「must(しなければならない)」から「will(したい)」に変えていく必要があります。前述のリーダーの前提を変えるというのは、メンバーのwillを引き出すために、非常に重要なのです。
人事部門においても「やらせきるリーダー」から、「引き出しきるリーダー」という人材像の転換が必要でしょう。リーダーにはメンバーの力を引き出していくことを求め、そのスキルを身に付ける支援をしていく。メンバーには主体的行動の発揮を求めていく。こうしたことにより、人事部は戦略遂行度の高い組織づくりから、実力の高いチーム作りの役割を担うようになっていくでしょう。
6.チームパフォーマンスを高めるカギ
Willと主体的行動を引き出す“引き出し型のマネジメント”が目指すのは、チームに関するあらゆることを「誰かの問題」ではなく「私たちの問題」だとメンバーが捉えるようにすることです。これが、チームパフォーマンスを高めるカギです。
うまくいっていないチームでは、「上司が悪い」「部下がふがいない」「あの人が自分勝手だ」といった発言があります。問題の原因を自分以外に求めるチームは、うまくいくはずがないのです。“不毛な犯人探し”が繰り返されてしまっています。誰か一人だけの影響を受けてチームの状態が作り上げられるということはありません。メンバー全員が多かれ少なかれ影響を与えているのです。あえて犯人を捜すのであれば、全員が共犯と言えるでしょう。
残念ながら、人事部門が意図せずに犯人捜しに加担してしまっていることもあります。例えば、ES調査で「部門の改善点があれば教えてください」「働きやすい職場にするには何があればよいですか」といった質問を入れたり、若手の面談で「上司はきちんと指導してくれますか」と聞いたりすることがありますが、これらの質問は意図せずに犯人探しをする思考に仕向けてしまう典型例と言えるでしょう。これらの問いは、他者に原因を求めたり、解決の責任を委ねる思考を促してしまう問いだからです。
チームパフォーマンスが高いチームは「私たちの問題」と捉えます。メンバーの問いは自分に向かいます。例えば、「部門をよくするために自分は何ができるだろうか」「上司のアドバイスを活かすためにどんな意識を持ったらいいだろうか」といったことです。つまり、“問い”がポイントです。自分に向かう問いが、評論家ではない、主体者としての気づきをもたらします。チームの課題が自分事になっていったとき、一人ひとりの主体性は高まっていくのです。
引き出し型のマネジメントと聞いて、「甘い」と感じた方もいるのではないでしょうか。しかし、引き出し型のマネジメントは、居心地のいいチームを作ることではありません。むしろ厳しいし、自律が求められるチームでもあります。なぜなら “問い”が自分に向かうからです。チームパフォーマンスの高いチームは、適度に緊張感があるチームでもあるということを知っておく必要があるでしょう。
次回からは、チームの成果につながる主体的行動の具体的な内容、それらを引き出すチームの状態、その状態を生み出すための具体論について連載を重ねていきます。
本稿は「人事マネジメント2020年5月号」に掲載された記事を再編集したものです。
株式会社日本経営
取締役 人事コンサルタント 橋本竜也
1999年に入社後、一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チーム診断の必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究過程や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。