主体的行動に影響を与える9つの心理要因(後編)
【連載】チームパフォーマンスを高めるマネジメント(4/7)
チームパフォーマンスとは、チームの成果につながるメンバー全体の主体的行動の発揮度合です。これまでの連載では、この主体的行動として8項目を挙げ、その発揮に影響を与える心理要因が9つあることを紹介してきました。前回は、9つの心理要因のうち「心理的安全性」「チームへの愛着」「目標共有」「メンバー信頼」「チャレンジ精神」を紹介しましたので、今回は「仕事のやりがい」「プロセス重視」「顧客重視」「チーム貢献の自信」について解説します。
心理要因のマネジメントのポイント
仕事のやりがい
担当している仕事の充実感、意義を感じている度合い。
“仕事のやりがい”は特に「最善行動」「顧客貢献行動」「チーム運営向上行動」に影響を与えます。やりがいを感じているからこそ、より積極に行動しようとする面があるでしょう。
やりがいを高めるということ自体が非常に難しいことですが、金銭的報酬だけでやりがいを引き上げるのは相当難しいということは、もはや人事関係者においては常識になっていると思います。やはり、仕事そのものの面白さ、奥深さ、達成感、成長実感、貢献実感などが高まるようにすることがポイントです。加えて、最近では若者を中心に、自分の仕事がどのように社会に貢献しているかを非常に重視する傾向もあり、仕事の意義付けが重要なカギを握ります。
ところで、職務適性モデルというものがあります。担当する仕事の特性が本人の内発的動機付けに影響を与えるというもので、すごく平たく言えば、次の5つの職務特性が充足するほどやりがいのある仕事になるということです。その5つは、次の通りです。
技能多様性 | 単純労働ではなく、多様なスキルを必要とすること。 |
完結性 | 部分ではなく、全体に関われること( 実際にすべてを担うということではなくても、全体を把握できる、意見が言えるということも効果的) |
重要性 | その仕事が重要な仕事だと感じられること (実際の重要度だけでなく、本人が重要と感じられるか、意味や意義を見出せるかも大事) |
自律性 | 自分の判断で進める裁量があること |
フィードバック | 仕事の結果について顧客等から反応が得られること |
職務適性モデルを参考にすれば、担当業務のやりがいを高める組み立てを考えることもできるのではないでしょうか。
プロセス重視
チームが仕事のプロセスを大切にしていると感じる度合い。
“プロセス重視”は特に「プロセス改善行動」に影響を与えます。また、「チーム運営向上行動」「メンバー支援行動」「チーム力活用行動」にも影響を与えることが分かっているので、リーダーがプロセス重視のチーム運営をすれば、一人ひとりのチームへの参画意識が高まると考えられます。そのため、結果至上主義ではなく、プロセス重視でチームマネジメントすることはリーダーにとって重要なマネジメントスタイルと言えます。
チームが結果を出すことは絶対的に重要です。プロセス重視というのは、結果を気にしないということではありません。結果がよくても悪くても進め方を振り返ったり、良い結果を出すにはよいプロセスが必要だということをリーダーが説いたり、結果が悪ければ徹底してプロセスを見直したりするなど、プロセスを重視したチーム運営をするということです。こうした取り組みは、多くの面でチームに良い影響をもたらします。
結果重視のマネジメントは時にメンバーを委縮させることもありますが、プロセス重視のマネジメントはメンバーの主体的行動を引き出します。また、プロセス重視のマネジメントは、心理的安全性にも良い影響を与えます。結果で追求されるのではなく、どう取り組んだかが問われるので、実は厳しい面もあります。それでも、チーム全体がプロセスにこだわる風土ができれば、働く人のマインドセットもポジティブになることが期待できます。
顧客重視
自分たちにとっての顧客は誰で、どのようにその顧客に役立とうとしているかを意識している度合い。
“顧客重視”は特に「顧客貢献行動」「最善行動」「プロセス改善行動」に影響を与えます。顧客貢献に向けた取り組みを引き出したいのであれば、「顧客は誰か、どのように役立とうとしているのか」を明確にし、メンバーに意識付けることが効果的です。「顧客は誰か」というと当たり前のように感じるかもしれませんが、意外とはっきり答えられない人も少なくありません。「私たちのサービスを必要としている人」と答えるかもしれません。では、私たちのサービスを必要としている人とはどのような人なのでしょうか。さらに、そのような人たちに私たちがサービスを提供することで、その人たちはどのような便益を受けることができるのでしょうか。こうしたことを明確に考えることは自分たちの取り組みを明確にしていくことにもつながり、効果的です。
例えば、“コーヒーを飲みたい人”とするよりも、“コーヒーを飲みながら仕事の合間にリラックスしたい人”としたほうが、自分たちが何をすべきかがより明確になるでしょう。直接部門よりも難しいのが間接部門ですが、筆者の経験からすると、間接部門の顧客像を安易に内部顧客に絞らないほうが、メンバーのモチベーションが高まる印象があります。例えば、人事部の顧客は一般的に従業員や経営陣、会社そのものとされる場合が多く、まさにその通りです。ただ、その企業の直接的な顧客を人事部の顧客と捉え、最高の人材やサービスを提供することを使命とするというケースもあります。このような場合は、人事施策の研究や教育制度の充実などにより積極的に行動しているケースが多いようで、簡単に言えば意識が高いです。顧客は1種類とは限りませんので、自分たちが取り組むことは、誰のために、どのように役立つかをメンバーが理解できるようにすることがポイントです。
チーム貢献の自信
メンバーとしてチームの様々な活動の場面(業務改善など)で役立てると感じる自信の度合い。
“チーム貢献への自信”は、特に「発信行動」に影響を与えます。これを高めるには、意見や提案が必要だというメッセージを発信すること、上司や他のメンバーが相談を投げかけることなどがポイントです。つまり、本人の自信もさることながら、必要とされているという実感も重要です。
このような話をすると、「意見を何でも採用しないといけないのか」と言われることがありますが、必ずしもすべての意見を採用しないといけないということではないでしょう。また、提案しても通らないと提案する意味がないという意見もありますが、不合理に却下されるから提案意欲を失うのであって、たとえ却下されたとしてもその理由や判断の根拠をきちんと説明すれば、提案意欲を失うということもないはずです。
なお、最終的に“自信”は自分の中に見つけるしかありません。本人が「自分も貢献できる」と感じられるためには、本人自身の実力の向上と周囲から必要とされている実感の両方を充実させていくことがポイントです。
狙いをもって心理要因をマネジメントする
顧客貢献 | 最善 | プロセス改善 | クリエイティブ | チーム力活用 | チーム運営向上 | メンバー支援 | 発信 | |
心理的安全性 | 〇 | 〇 | ||||||
チームへの愛着 | 〇 | |||||||
目標共有 | 〇 | 〇 | ||||||
メンバー信頼 | 〇 | |||||||
チャレンジ精神 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
仕事のやりがい | 〇 | 〇 | 〇 | |||||
プロセス重視 | 〇 | 〇 | ||||||
顧客重視 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||
チーム貢献への自信 | 〇 |
この表は、前回と今回で解説した心理要因が特に影響を与える主体的行動の一覧です。
左側に心理要因、上側に影響を受ける行動を表示しています。
どの心理要因も行動に影響を与えますが、特に効果が期待できる部分に〇を付けてあります。この影響は、業種や職種等によって多少の違いは生じますが、ある程度共通しています。
これを活かせば、特に強化したい主体的行動に狙いを定めてリーダーが心理要因をマネジメントしたり、チームの課題に応じて人事部が支援したりするということもできます。
例えば、慣れやマンネリのためか、どうも仕事がほどほどで活気がないというチームの場合、「最善行動」に課題があるかもしれません。その場合、「目標共有」「仕事のやりがい」「顧客重視」などを重点的に取り組んでみるとよいということになります。チームの連携がしっくりしていない場合は、「メンバー支援行動」に課題があるかもしれません。その場合は、「心理的安全性」「目標共有」「チャレンジ精神」「プロセス重視」などを重点的に取り組んでみるとよいでしょう。リーダーは意識的にいくつかの心理要因をマネジメントしてみるとよいですし、人事部であれば研修やワークショップを提供したり、リーダーのマネジメントを個別に支援することなども考えられます。
うまくいっていないわけではないが、何かが足りない、もっと力を発揮できるはずだと感じられるチームはたくさんあります。ただ、あれもこれも試すことはできませんし、できれば短期間に効果を実感したいものです。そこに、リーダーが狙いをもってマネジメントをしたり、人事部が支援やアドバイスをしていければ、チームパフォーマンス向上の成果を実感できるはずです。
次回は、心理要因を向上させるリーダーについて解説します。
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第1回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第2回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第3回はこちら
株式会社日本経営
取締役 人事コンサルタント 橋本竜也
1999年に入社後、一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チーム診断の必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究過程や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。