調査レポート・コラム

求められる新たなリーダーシップのスタイル

【連載】チームパフォーマンスを高めるマネジメント(5/7)

新たなリーダーシップのスタイルが求められている

現在はVUCAの時代とも言われる、先の見通しが立てにくく、想定外の変化が起こる時代と言われていますが、そうした中で2020年、私たちは、新型コロナウィルスという未知なる脅威にさらされました。その対応として学校の閉鎖から始まり、企業活動の自粛、さらには緊急事態宣言への対応と、次々と経験したことのない外部環境の変化に直面しました。

これらの危機的状況に一握りのリーダーの力だけで対応できた企業がどれほどあったでしょうか。筆者も経営層の一人として様々な対応をしてきましたが、現場からの様々な提言や情報提供がなければ、急速なテレワークへの移行や顧客訪問体制の変更などは実現できなかったと思います。

この連載の第1回で、変化の激しい時代に効果的なマネジメントをしていくためには、「リーダー自身が持つ前提を変える必要がある」解説しました。その前提とは、「リーダーは答えを知っている」「リーダーは一人で問題解決策を考え出すべきである」といったことでした。これらの前提は、メンバーの力を引き出すためのリーダーシップを阻害してしまうからです。

新型コロナウィルスによる今回の危機によって、メンバーの力を引き出せるリーダーや主体的に行動するチームがいかに重要であるかを企業は強く実感したでしょうし、人事部門においても、そうしたリーダーやチームの育成の必要性を認識したものと思います。まさに新たなリーダーシップのスタイルが求められていると言えるのです。

指示命令型から引き出し型のマネジメントへ

ビジネスの世界においても、前例や過去の経験では通用しない、答えや正解が誰にも分からない状況にさらされることが多くなっています。そうした中で、リーダーだけが考え、適切な指示を出すというのは、そもそも無理なことでしょう。

メンバーが事態に対して当事者意識を持ち、意見や提案を自主的に発信するとか、メンバー同士がお互いに情報やノウハウを交換し合ったりするようなチームでなければ、十分な成果を実現できないでしょう。

リーダーを改めて定義すると

チームの目的・目標を定め、メンバーの力を活かしてそれを実現する者

と言うことができます。いつの時代でもリーダーは成果を求められます。これは変わりません。しかし、チームとして成果を上げるためのリーダーシップのスタイルには変化が必要です。

これまでは、問題解決力があり、適切な指示と徹底した進捗管理をする指示命令型のリーダーが、強いリーダーシップを発揮しているとイメージされました。しかし、今求められているのは、メンバーの力を引き出し、一人ではできないことを実現する引き出し型のマネジメントでしょう。人事部門としても、引き出し型のマネジメントを実践できる人材の育成に力を注ぐ必要があるはずです。リーダーシップのスタイルにも変化が必要になっているのです。

引き出し型のマネジメントに必要な対話スキル

引き出し型のマネジメントを実践するうえで重要なスキルは、対話スキルです。対話スキルが重要と言うと、メンバーに「あなたの意見は?」と問うことかと簡単に捉えられてしまうこともありますが、聞けば部下は答えるというほど単純な話ではないでしょう。

対話スキルを簡潔に説明するとすれば、「自分のナラティブ(物語・価値観)と相手のナラティブの間をつなぐ技術」と言えます。対話の前提は、相手のナラティブを理解しようとする姿勢です。これは自分の意見を相手に納得させようという視点とは対極にあります。ですから、質問をするにしても、「あなたの意見は?」といった単純で表面的なものではなく、例えば「この件について、あなたがどう捉えているのかを教えてほしい」といったように、あなたの考えを知りたいということが伝わるような質問の仕方が重要になります。

対話の方法論は奥深く、本連載では取り上げきれないので、ぜひ関連する書籍などで実践力を高めていただきたいと思います。コーチングスキルなども、もちろん有用です。部下やメンバーとのコミュニケーションを一方通行ではなく、対話型にしていくということです。

引き出し型のマネジメントに必要なマインドセット

引き出し型のマネジメントを実践するためには、対話スキルのような様々なスキルも重要ですが、チームパフォーマンスを高めるリーダーシップの実践においては、リーダーのマインドセットがより重要になります。なぜなら、リーダーのマインドセットがチーム全体に与える影響が大きいからです。メンバーが「やりたい!」と思えるチームの雰囲気を醸成しなければ、メンバーの行動が発揮されないので、チームパフォーマンスを向上させることも難しくなります。

特に重要なリーダーのマインドセットは、「目的志向」「前向きさ」「メンバー信頼」です。

目的志向

人は目的があって行動します。「何のためにするのか」を納得できているほど、主体的に行動できます。だからリーダーは、自分自身の行動が常に目的志向であるべきですし、メンバーにもその目的を伝える努力をしなければなりません。

日常の指示においても同様です。「この資料をまとめてくれ」という指示に目的があるでしょうか。私たちは多くの場面において目的を省略して、すべきことだけを伝えてしまっています。チームパフォーマンスの高いチームでは、目的確認が頻繁に行われています。リーダーはそのように仕向けていくべきであり、自分自身が目的志向であることが必要です。

さらに、その目的はより高次のほうが、メンバーの主体的行動のレベルも上がります。レンガ積み職人の話があります。レンガを積んでいる職人に何をしているかを問います。Aは「レンガを積んでいる」と答える。Bは「家を作っている」、Cはなんと「住む人の幸せを作っている」と答えるという話です。これほど意識が違えば、レンガの積み方一つとっても変わってくる、目的意識が重要だという話です。かつては、日本人はBやCと答え、欧米人はAと答えると言われていました。今では、逆になっているとも聞きますが、印象としては納得できる話です。

なぜ日本人は「レンガを積んでいる」と答えるようになったのでしょうか。日本は責任の所在が曖昧だとされ、職務分担と責任の明確化が進んだことが要因だと私は考えています。職務分担と責任の明確化が進んだ結果、自分と他者の仕事を分けるようになり、自分の仕事だけをする傾向が強まったのではないでしょうか。職務分担や責任の明確化は重要ですが、それを進める前提は目的共有です。目的を共有したうえで、職務を分担する必要があるのですが、、それがおろそかになっていることが多いのです。また、目的のレベルが低いということもあります。レンガ積み職人の例でいえば、「レンガを積んでいる」では、チームになりません。家を作っている、幸せを作っているという目的が共有されてこそ、職務は分担されていても、チームとして効果的に活動できるのです。

前向きさ

前向きさとは、物事を肯定的に捉える技術です。エリスは、事実そのものが感情や行動に影響を与えるのではなく、その事実をどう解釈するかに影響を受けると説きました。ABC理論として有名ですが、事実の解釈の仕方を前向きにすることで、行動を変えられるのです。悲観的な捉え方をした場合は、その反対から見てみる、合理的に考えを検証する、あえて良い面を見出す、ということが前向きさの技術です。例えば、よく「最悪だ」と簡単に言う人がいますが、最悪がそうそうあるはずがない、というのが合理的な検証です。

私たちの研究では、すでに紹介した行動を促す心理要因の「チャレンジ精神」が、チームの雰囲気から影響を受けることを明らかにしています。リーダーが事態を前向きに捉えてメンバーに発信していけば、チーム全体のチャレンジ精神を高めていくことも可能になります。逆に言えば、リーダーがいつも悲観的、否定的、後ろ向きであれば、メンバーのチャレンジ精神は失われ、行動はどんどん消極的になってしまいます。これでは、メンバーの消極的な行動を誘発しているようなものです。

メンバー信頼

メンバーを信頼していなければ、相手も自分を信頼してくれません。メンバーを信頼することが、引き出し型のリーダーシップの大前提ですが、さらに重要なことは、メンバーが自分たちは信頼されていると“感じること”です。しかし、多くの管理やそのツールは、メンバーに「あなたを信じていない」というメッセージを発し続けています。指示命令型だと、本当はそう思っていなかったとしても、不信を生んでしまうデメリットがあります。信頼されていると実感するもっとも簡単な方法は、相談することです。チームパフォーマンスが高いチームのリーダーは、よくメンバーに相談しています。相談を受けた側は必要とされている実感が高まり、信頼感を持つようになります。

リーダーだけがチームの雰囲気を作るわけではありませんが、リーダーは大きな影響力があります。ぜひ、3つのマインドセットを備えていただきたいと思います。

チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第1回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第2回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第3回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第4回はこちら

その他のコラム・レポートはこちら

株式会社日本経営
取締役 人事コンサルタント 橋本竜也

1999年に入社後、一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チーム診断の必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究過程や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。


上矢印