調査レポート・コラム

理想的なチーム状態

【連載】チームパフォーマンスを高めるマネジメント(6/7)

心理的安全性を誤解しない

2015年に米Google社が、生産性が高いチームは心理的安全性が高いと発表し、「心理的安全性」という言葉が一気に注目されました。心理的安全性という言葉は、意見が言いやすい職場、相談しやすい人間関係、批判を受けないコミュニケーションなど、ある意味居心地の良さをイメージさせるため、日本においても急速に広まりました。ただ、心理的安全性は、居心地の良さを言っているのではないことに注意が必要です。

心理的安全性とは、「自分の考えや意見を偽りなく伝えることができ、それによって人格否定や不利益な扱いを受けることがないと信じられる状態」です。つまり、人格否定や不利益な扱いはされないものの、おかしいことはおかしい、ダメなことはだめだという意見が率直に自分にも飛んでくる状態のことです。果たして、これは多くの人にとって心地よい状態といえるでしょうか。

一般的に、心理的安全性と聞くと「意見の言いやすさ」という、自分が伝える側のポジションから見てしまうことが多いものです。しかし、これが誤解を生むのです。相手の考えや意見が率直に、遠慮なしに自分に向かってくるということが想像できていないのです。意見の受け手側から捉えた時、果たしてどれだけの人がそれを歓迎できるでしょうか。

心理的安全性の高いチームを作ることは非常に重要です。ただし、居心地のいい状態を作ることだとメンバーが誤解しないようにしたいものです。

なぜ、多くの人が心理的安全性を「自分が意見を言う側」という視点から捉えてしまうのでしょうか。それは、上司が意見を聞く側、部下が意見を言う側という構図を無意識に作っているからです。この構図がある限り、心理的安全性の高いチームを作ることはできません。まずは、この構図を壊してしまいましょう。

心理的安全性の高いチームを作るために

この構図を壊す一番シンプルな方法は、メンバーの誰もが「遠慮なしの意見を言われる側」に立って、どのような態度や考え方を持つべきかを考えることです。自分で考えてもらうのが一番ですが、次のようなことがポイントになります。

◇相手が話しやすい態度で話を聞くこと
◇自分から「意見をください」と伝えること、フィードバックを求めること
◇自分が批判されているのではなく、意見が批判されていると捉えること(人と事を分ける)
◇プロとして自分自身の力を高め、自信をつけること

心理的安全性の高いチームとは、いわばプロのチームです。アマチュアの集まりでは、心理的安全性の高いチームは作れません。この認識をメンバー全員が持つことが重要です。

心理的安全性はリーダーだけでは作れない

我々の研究では、リーダーからメンバーへの個別アプローチで心理的安全性を高めようとすると、そのメンバーのチーム内での主体的な行動に負の影響を与えることが分かっています。

一方、チーム全体が心理的安全性の向上に取り組んだ場合、メンバーの積極的な行動に正の影響を与えることが分かっています。

つまり、心理的安全性は、上司・部下などの一対一の関係性に構築するのではなく、チーム全体で高めるアプローチが重要なのです。

簡単に言うと、「“この人”なら本音をさらけ出せる」ではなく、「この“チーム”なら、本音をさらけ出せる」という状態を作らなければ、チーム内でのメンバーの主体的行動の促進につながらないのです。

だから、面談等を通じて、リーダーとメンバーの個別関係性をたくさん張り巡らすよりも、チームの誰もが当事者意識をもって課題に向き合うようにすることのほうがチームパフォーマンスにとっては重要なのです。

理想のチームを作るために

チームパフォーマンスの高い理想のチームとは、チームの成果や抱えている問題に対して、誰もが自分事ととらえているチームです。このような状態になっていれば、メンバーは主体的に行動し、チームに何かが起きても一体となって事態を解決し、乗り越えていこうとします。

チームの成果につながる主体的行動は、すでに紹介した「顧客貢献行動」「最善行動」「プロセス改善行動」「クリエイティブ行動」「チーム力活用行動」「チーム運営向上行動」「メンバー支援行動」「発信行動」です。この行動が高ければ理想的な状態ですが、それを引き出すには9つの心理要因が重要です。逆に言えば、チームパフォーマンスに課題がある場合、心理要因に問題を抱えている可能性があります。

理想のチームを作るためには、チームの心理要因の状態を可視化し、メンバー全員が同時にその結果を共有し、自分たちがどうすべきかを話し合うワークショップが効果的です。リーダーにだけ結果を見せて改善策を考えたり、メンバーに説明するような手法では、結局リーダーに責任があるというメッセージになり、その他のメンバーの当事者意識を奪ってしまいます。できる限り同時に結果をフィードバックしたほうがよいし、ワークショップのその場で全員一斉に結果を見せる方法も効果的です。

チームによっては、人事部門がファシリテーターとして介入することが効果的な場合もあります。ファシリテーターは、効果的な問いを提供する役割に徹します。例えば、心理的安全性に課題があれば、「誰でも率直に自分の意見を言えるようにするために、自分ができることは何だと思いますか?」といった問いを出します。付箋に書いてもらって、張り出していく方法も効果的です。重要なことは、「何が問題ですか?」とか「どうしたらいいですか?」といった、本人以外に原因や解決策を求めるような問いをしないことです。あくまで、「あなたは?」「自分ができることは?」と、本人にベクトルを向けた問いをすることで、メンバーの主体性を引き出していくことができます。筆者の経験では、こうした効果的な問いを継続すれば、時間がかかったとしても、チームは自分たちで問題を認識し、対応策を考え始めます。

チームの心理要因を可視化する方法

心理要因を可視化するには、匿名アンケートが基本です。9つの心理要因について簡易的にアンケートを実施するとすれば、次のような問いが良いでしょう。

心理的安全性 私のチームは、本音を話すことを受け入れる雰囲気がある
チームへの愛着 このチームの一員としての誇りがある
目標共有 チームの目標を理解している
メンバー信頼 私のチームメンバーは、私が仕事上問題に直面したとき親身に対応してくれる
チャレンジ精神 チャンスに恵まれていると思う
仕事のやりがい 現在の仕事はやりがいを感じられる仕事だと思う
プロセス重視 私のチームは結果だけでなく、プロセスや取り組み姿勢も大事にしている
顧客重視 顧客が誰か(どのような人たちか)を意識して行動している
チーム貢献への自信 メンバーに仕事上役に立つ情報を提供する自信がある

当社ではチームパフォーマンスと心理要因を可視化するツールNaviLightを提供しているので、より確実に把握したい場合は、ぜひご利用ください。どんな結果であっても前向きに捉えられる工夫もしてあるので使いやすくなっています。

アンケートの設問をオリジナルで作成する場合、留意する点は二つ。一つは、特定の個人に向けた質問を作らないこと。例えば、「上司は~してくれますか?」といった質問がそれにあたります。もう一つは、本人がどう感じているかを質問することです。この二つのポイントを踏まえると、評論家思考を抑えることができます。これは、ES調査でも同様です。

いずれにしても、本人の主体性を削がず、引き出すことを意識することが重要です。

チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第1回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第2回はこちら
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株式会社日本経営
取締役 人事コンサルタント 橋本竜也

1999年に入社後、一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チーム診断の必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究過程や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。


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