調査レポート・コラム

主体的行動に影響を与える9つの心理要因(前編)

   <心理要因のマネジメントで主体的行動を促進!>

【連載】チームパフォーマンスを高めるマネジメント(3/7)

心理要因が行動に影響を与える

チームの成果につながる主体的行動には、「顧客貢献行動」「最善行動」「プロセス改善行動」「クリエイティブ行動」、「チーム力活用行動」「チーム運営向上行動」「メンバー支援行動」「発信行動」があります。(詳しくは前回のレポートをどうぞ

リーダーとしては、メンバーにこれらの行動をできる限り高いレベルで発揮してもらいたいでしょう。そこで、行動そのものを促したり、発破をかけたりしてしまいがちですが、行動は心理要因の影響を受けて、その発揮度合いに大きな差が出るということを理解しておく必要があります。「やれ!」と命令したところで、「やりたい!」「やろう!」「やってもいいんだ」と感じられなければ、人は行動しないですし、行動したとしても長続きしません。

メンバーの主体的行動を引き出して、チームパフォーマンスを向上させようとするならば、メンバーの心理状態をマネジメントすることが重要になります。そこで、ここからはメンバーの主体的行動をに影響を与える心理要因とそのマネジメントポイントについて解説していきます。

主体的行動の発揮につながる心理要因とは

当社では、チームの成果につながる8つの主体的行動に影響を与える心理要因を9要素に定義しており、因果関係も統計的に検証し、優位な信頼度を得ています。これは相関ではないので、これらの心理要因が向上すると、主体的行動の発揮も高まる関係にあるということです。

その心理要因は「心理的安全性」「チームへの愛着」「目標共有」「メンバー信頼」「チャレンジ精神」「仕事のやりがい」「プロセス重視」「顧客重視」「チーム貢献への自信」です。これらがよくなるほど、メンバーは主体的行動を発揮しやすくなります。

チームの雰囲気が、個人の心理に影響を与える

ところで、チーム全体の雰囲気は、個人の心理に影響を与えることも分かっています。例えば、非常に前向きで積極的だった人が、ネガティブな雰囲気の部署に配置されたところ、しばらくすると本人も受け身的、消極的になってしまったというようなケースです。もちろん、逆もありますが、このようなケースは比較的ありがちではないでしょうか。そのため、チームの雰囲気が個人の心理に影響を与えるということは当然に感じられるかもしれませんが、ここには重要な示唆があります。

  • 個人面談等の1対1のアプローチで本人のモチベーションを上げようとしても、チームの雰囲気が向上しないと効果が少ない。
  • 上司と部下の1対1の関係だけでは本人の心理状態を高めるには限界があり、チーム全体が当事者意識を持って雰囲気作りをする必要がある。
  • チーム自体が良い雰囲気になれば、メンバー個人の心理状態も引き上げられる。

これらの示唆は、つまりは、チーム全体の関係性を高めるマネジメントが必要だということなのです。

1対1の関係づくりに偏りすぎ

ところが、これまでの人事マネジメントは、1対1の関係づくり、特に上司と部下の関係づくりに偏りすぎてきたきらいがあります。

例えば、定期個別面談(1on1等)や個別の動機づけ(モチベーション向上)、報・連・相などです。これらはどれも重要ですが、上司と部下のつながりが深くなるものの、本人とチーム、チーム内のメンバー間のつながりを深める取り組みとは言えません。強調しておきますが、個別面談等が効果がないとか、デメリットしかないということではありません。1対1の関係づくりに偏りすぎているということです。

上司と部下の関係だけが強化されると、部下が上司に対して受け身的になったり、上司には心を開いて積極的に話をするのに、チーム全体のミーティングでは黙ってしまったりということが生じます。

一人ひとりの心理はチームの雰囲気に影響を受けるのですから、チームとして仕事をしているのであれば、チーム全体の心理要因の向上を意識したマネジメントも必要になるということです。そこで、以降の解説では、それぞれの心理要因について、チーム全体の意識を高めるポイントを解説していきます。これは、個人ではなく、あくまでチームのマネジメントだということを意識しながら読み進めていただければと思います。

心理要因のマネジメントのポイント

心理的安全性

チーム内で自分の意見や考えを偽りなく伝えられると感じる度合い。

心理的安全性というと居心地の良さを想像してしまう人が多いですが、心理的安全性が高いことが必ずしも居心地がよいとは限りません。むしろ、厳しい雰囲気があるかもしれません。心理的安全性については、まずこの点を十分理解しておいていただく必要があります。

例えば、部下が上司に対して「それは間違っています」とか「そのやり方だと効率が悪いです。やり方を変えるべきです。」など、自分の考えを率直に伝えるからです。いくら意見を歓迎するといっても、やはり受け手側は相手が部下だったり、年下だったりすれば、多少の抵抗感があるものです。

心理的安全性が高い職場とは、むしろプロの職場と言えるでしょう。

遠慮なしに意見をぶつけ合うわけです。学会で発表者に対する質疑応答の時間がありますが、そのようなイメージに近いかもしれません。発表者に対して、手厳しい質問を投げかけるものの、それはその人の人間性や発表スタイル、態度などとは関係ありません。発表内容そのものについて質問したり、意見を述べたりします。そこは緊張感のあるやり取りですが、そのセッションが終われば、「良い質問をありがとうございました」「いえ、なかなか興味深い研究成果ですね」などと談笑していたりします。お互いにプロとして研究内容や成果について率直なやり取りをしていますが、それは発表者の人間性や人格、立場などとは関係ないのです。

こうしたことから、心理的安全性を高めるマネジメントにおいては、事と人を分けるということが重要になります。事と人を分けるためには、 まず考え方や価値観は違うということをメンバーが前提として認識することが重要です。

次に、心理的に安全な場を作ることは、より良い仕事のために重要だということをメンバーが理解し、メンバー全員が心理的に安全な場づくりに取り組むという共通認識を作ることがポイントです。誰かの意見に迎合したり、より良いアイデアがあるのに出さなかったりすればもったいないことです。心理的安全性の高い場を作ることは、仕事の質を高めることにつながるということをメンバーで共通認識しましょう。心理的に安全な場は、リーダーだけでは作れません。心理的安全な場を作るというチームポリシーを作成したり、会議での発言ルールなどを合議で作り上げることなどが効果的でしょう。

なお、心理的安全性は、8つの行動要因の中でも特に「メンバー支援行動」「チーム運営向上行動」に対する影響が大きいので、メンバーの協力関係やチームへの参画を高めたければ、心理的安全性向上のマネジメントを意識するとよいでしょう。

チームへの愛着

チームやメンバーに対して感じている好意的感情、敬意の度合い。

チームへの愛着は、特に「チーム力活用行動」に影響を与えます。チーム力活用行動は、チームの力を仕事に活かすためにメンバーとコミュニケーションを図ることですが、チームへの愛着を高めないとコミュニケーション行動も発揮されにくいということです。

チームへの愛着を高めるには、メンバーやチームそのものに関心を持ち、よく知ることです。お互いのキャリアや人柄をよく知ることも大事です。また、チームが顧客や会社、世の中にどのように役に立っているかを自覚すること、チームの成り立ちや歴史などを知ること、外部からの期待(または評価)を知ることなどもポイントになります。チームのキャッチフレーズや愛称を作ったりすることも効果的でしょう。

目標共有

チームの目標とその達成に向けた自分の役割の理解度合い。

目標共有は特に「メンバー支援行動」や「最善行動」に影響を与えます。目標共有を高めるには、チーム目標の目的や意義を共有すること、達成したときの達成感や他者への貢献度をイメージすることなどがポイントになります。リーダーが何度も目標を伝えているのにメンバーが理解していないということがよくありますが、数値目標だけ伝えて、その目的や意義を伝えていないという場合は、伝えているはずなのに伝わっていないということが起きがちです。目的・意義がある達成基準は目標ですが、それがなければノルマです。目標の姥久手・異議を共有すること、されに目標達成に向けた進捗の見える化や、メンバー同士での細かな進捗確認なども効果的でしょう。

メンバー信頼

メンバーに対する能力面・心理面の信頼の深さ。

職場における他社への信頼は、職務的信頼と心理的信頼で構成されます。どちらか一方だけだと十分に信頼を得られないということに注意が必要です。当然ながら、仕事においては、人柄だけでメンバーの信頼を得ることは難しいでしょう。しかし、職務能力がいくら高くても、人柄や人間性に課題があれば、やはり信頼を得られません。職務的信頼が高くて、心理的信頼が低い場合、他のメンバーは仕事上はどうしても頼りにせざるを得ませんから、よけいストレスを受けることになります。職務的信頼が高いほど、心理的信頼の向上も重要になるということを仕事ができる人にはわかってもらう必要があるでしょう。

また、メンバー信頼を高めるには、人間関係が重要ですが、信頼される側と、信頼する側という対立の構図にしないことも大事なポイントです。一般的に、上司や先輩は信頼されるべき側、部下や後輩は信頼する側という構図が生まれがちです。しかし、これでは対立の関係であり、本来の信頼関係は生まれにくくなります。重要なことは、立場や経験によらず、誰もがメンバーから信頼されるための努力をする必要があるという認識を持つことでしょう。そのうえで、一人ひとりが他のメンバーの強みに目を向けるようにしたり、実績を共有したり、考えや思いを共有する機会を作ったりすることが有用です。

チャレンジ精神

自分の身に降りかかる苦難や、チャレンジを通じて経験する困難な状況を肯定的(前向き)に捉える度合い。

チャレンジ精神これは成果につながる8つの主体的行動のほとんどに影響を与える重要な心理要因です。チャレンジ精神は、「状況を肯定的(前向き)に捉える度合い」という定義が重要です。もともとポジティブだとか、前向きな性格だといった性格や資質の問題にせず、物事の捉え方や見方を前向きにすることなのだと理解してください。例えば、「もうこれしかない」と捉えるか、「あとこれだけある」と捉えるかといったことです。これは物事の捉え方の訓練で身に付けられるので、ポジティブシンキング、エリスのABCDE理論、ロジカルシンキングなどが利用できるし、リーダーやメンバーが前向きに物事を捉えるような習慣を作っていくとよいでしょう。昔から「ピンチはチャンス」とよく言われます。本当はピンチはピンチなので、心底楽しめるという人は相当少ないでしょうが、それでも「ピンチはチャンス」と”捉える”ことで、前向きな行動を引き出すこともできるでしょう。このようにチームとしてキャッチフレーズやチームコンセプトを作ることも効果的です。ある病院では「Always Say Yes」、とにかく患者さんのためにYesと言おう、断らないということをキャッチフレーズにしています。

今回は9つの心理要因のうち、「心理的安全性」「チームへの愛着」「目標共有」「メンバー信頼」「チャレンジ精神」を紹介しました。次回は「仕事のやりがい」「プロセス重視」「顧客重視」「チーム貢献への自信」について説明します。

チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第1回はこちら
チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第2回はこちら

その他のコラム・レポートはこちら

株式会社日本経営
取締役 人事コンサルタント 橋本竜也

1999年に入社後、一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チーム診断の必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究過程や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。


上矢印