調査レポート・コラム

チームの成果につながる8つの主体的行動

      <主体的行動を引き出すポイント>

【連載】チームパフォーマンスを高めるマネジメント(2/7)

トピック
 1.チームパフォーマンスを何で測るか
 2.
チームの成果につながる主体的行動とは?
 3.自己向上分野の4つの行動
 4.チーム向上分野の4つの行動
 5.8つの主体的行動をチームパフォーマンスとしてどう測るか?
 6.チームパフォーマンスを高めるためには?

1.チームパフォーマンスを何で測るか

100チームで開催されるサッカー大会があるとします。
Aチームは総勢50人でメンバーは全国からスカウトした優秀な選手ばかり。
Bチームは20人でメンバーは初心者も含む標準的な選手中心。
結果は、Aチームはベスト16、Bチームはベスト32。
さて、どちらのチームがパフォーマンスを発揮しきれたといえるでしょうか。

成績で言えばAチームが上ですが、メンバーの実力からするともっと上に行けたのかもしれません。はたまた、Bチームが大健闘だったのか。いずれにしても、Bチームのほうが持てる力を発揮しきれたように思われます。

成果や実績は目に見えやすいですが、必ずしもそれがチームパフォーマンスの発揮度合いやそのチームのリーダーの優秀さの基準とは限りません。ここではスポーツの例でしたが、ビジネスにおいても同様に考えられます。むしろ、ビジネスのほうが成果や業績は様々な影響を受けやすいかもしれません。市場の状況や景気、戦略、商品力、法的規制、政策や行政動向、ライバル企業の動きなどあらゆる影響を受けます。

ビジネスの成果や業績がチームのパフォーマンスやメンバーの実力以外の影響も強く受けるのであれば、チームの優秀さやパフォーマンスの程度を成果や業績で測るのは適切とは言えないことになります。もっと、チームそのものに目を向けることが重要になります。

チームのマネジメントで大事なことは、そのチームが本来持っている力を最大限引き出すことでしょう。もし、そのチームが持つ最高の力を発揮しても成果が出ないのであれば、それは戦略や商品性、組織構造などが悪いのかもしれないし、メンバーの限界なのかもしれません。

もっと純粋にチーム自体に目を向け、メンバーが「成果につながる行動をどれだけ主体的に発揮しているか」で捉える必要があります。これは簡単ではありませんが、真に力のあるリーダーの見極めやチームの健全性を把握することにおいても重要であり、人事部においても今後さらに重要性が高まる視点です。

2.チームの成果につながる主体的行動とは?

組織行動論の分野にproactive behaviorという概念があります。Grant & Ashford(2008)は、これを「個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような積極的行動であり、未来志向の行動」と定義していますが、当社ではこうした先行研究にコンサルティングで蓄積してきたノウハウを加え、チームの成果につながる8つの主体的行動として整理し、定義しています。ここで、8つの主体的行動を紹介したいと思います。まず、これらの主体的行動は、自己向上分野とチーム向上分野に大別されます。

自己向上分野は「顧客貢献行動」「最善行動」「プロセス改善行動」「クリエイティブ行動」、チーム向上分野は「チーム力活用行動」「チーム運営向上行動」「メンバー支援行動」「発信行動」です。これらの行動をメンバーが高いレベルで発揮しているほどチームとしての成果や目標達成を実現する可能性が高くなります。これらの主体的行動は当社が検証のうえで整理、定義したものですが、読者の方も成果につながる行動としてある程度納得していただけるのではないでしょうか。全く意外なものは特には一定なので、セオリー通りといえば、そうかもしれません。

自己向上分野><チーム向上分野>
顧客貢献行動チーム力活用行動
最善行動チーム運営向上行動
プロセス改善行動メンバー支援行動
クリエイティブ行動発信行動

それでは、次から一つひとつの行動について具体的に紹介したいと思います。

3.自己向上分野の4つの行動

チームで仕事をしているとはいえ、ぶら下がりメンバーばかりでは、成果を実現できません。自己向上分野は、自分の仕事をより良くしようという主体的行動です。定義とポイントは次の通り。

顧客貢献行動

顧客に対して自分ができる最大限の貢献をしようとする行動です。常に意識して取り組まなければ、事務的になったり、ほどほどで済ませてしまったりすることすらあります。顧客を常に意識した行動ができているかがポイントです。なお、間接部門等においては、従業員や取引先などが顧客と捉えられますが、そもそも顧客の定義が部門内でなされていなければ、この行動は発揮されにくくなります。

最善行動

自分の仕事に全力で取り組み、最善を尽くす行動です。仕事では慣れや妥協も出てきがちですが、手を抜かずに自分の仕事を高い意識でやり切っているかがポイントです。

プロセス改善行動

自分の仕事のプロセスをより良くするための行動です。良い結果を出すには、良いプロセスが必要であり、その進め方や段取り、効率性などに問題意識を持ち、少しでも良くなるようにしているかがポイントです。

クリエイティブ行動

自分の仕事に新たな視点やアイデアを取り入れようとする行動です。決まった通りにただ仕事をこなすのではなく、情報収集をしたり、アイデアを交換したりしながら、仕事をレベルアップさせていこうとしているかがポイントです。

専門職は自己向上分野の関心が高い

ところで、医師、設計士、税理士など、専門職といわれるような職種のチームを診断すると、明らかに「自己向上分野」の点数がチーム向上分野よりも高くなる傾向があります。専門職のマネジメントの難しさとも言えますが、専門職はそもそも自己向上に熱心だとも言えます。そのため、チーム向上分野の行動を促していけば、チームとして非常に高いパフォーマンスを発揮することが期待できます。なお、一般的なチームはチーム向上分野のほうが高くなることが多いので、自己向上分野の行動を促すことがポイントになることが多いです。

4.チーム向上分野の4つの行動

チームで仕事をしている以上、チーム全体の力を高めていくことが重要ですし、チームの力をメンバーが自分の仕事に活かせば、個人の成果にも良い影響が期待できます。チーム向上分野はメンバーが当事者意識を持ってチームに関わり、チーム力を高めようとする主体的行動です。定義とポイントは次の通り。

チーム力活用行動

メンバーの力を活かして、自分の仕事を高めるためのコミュニケーション行動です。メンバーの強みやノウハウを自分の仕事に活かすために、自分から相談したり、提案を求めたりすることがポイントになります。

チーム運営向上行動

チームの運営や活動をより良くするための行動です。チームを向上させるのは管理職や会社だけの責任ではなく、メンバー一人ひとりの責任だという意識で行動しているかがポイントです。

メンバー支援行動

自分以外のメンバーの仕事がより良くなるように、出し惜しみせずに自ら支援や提案をする行動です。相談されれば協力するというレベルではなく、周囲に関心を払い、進んで支援や提案、アドバイスをするかどうかがポイントです。特に専門職等においては、自分のノウハウや情報を進んで提供するかは、チームが機能するうえで非常に重要になります。

発信行動

自分の意見や考えをチーム内で進んで発信する行動です。ただ発言するのではなく、価値あることを提言できているか。また、たとえ反対意見があったとしても、自分の考えを偽りなく伝えられているかがポイントです。特に、おかしいと思った時、違和感を感じたときなどにそれを周囲に伝えられるかが重要なポイントになります。

5.8つの主体的行動をチームパフォーマンスとしてどう測るか

チームパフォーマンスは、主体的行動の発揮度合で捉えるべきですが、あくまで「チームの成果につながる」主体的行動を捉える必要があります。その意味で、前述の8つの行動は、チームによって求められる成果が様々であったとしても、共通する重点的な主体的行動を絞り込んだものなので、参考にしていただければと思います。

チームパフォーマンスは“行動”なので、8つの行動の着眼でメンバーを観察すれば、ある程度把握することはできます。より数値的に把握するのであれば、アンケート調査が基本となります。上記の各行動の定義を実践しているかを問う質問(例:自分の仕事に他のメンバーの強みやノウハウを活かしていますか?)を作成すれば、簡易な測定は可能です。

当社ではチームパフォーマンスを手軽で的確に把握できるサービスNaviLightを提供しているので、興味がある方はぜひお試しください。

6.チームパフォーマンスを高めるためには?

まず上記の8つの行動をメンバーに紹介し、こうした行動がチームとしての成果を実現するために重要だと意識してもらうだけでも、チームパフォーマンスは多少は向上します。ただ、より一層行動を引き出すためには、行動自体を促すだけでは足りません。例えば、「もっと意見を出して」と促しても、そう簡単には意見を言うようにはならないことは、多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。

行動を促しても実践につながりにくいのは、行動は心理要因に強い影響を受けるからです。大事なことは「行動したい」、「行動が制限されていない」と本人が感じることです。先の例で言えば、「意見を言いたい」「意見を言ってもいいんだ」とメンバーが感じることです。

ここに従来の指示・命令のマネジメントの限界があります。チームパフォーマンスが高いチームを作るためには、行動を引き出す心理要因のマネジメントが必要なのです。

次回は今回紹介した8つの行動要因に影響を与えることが検証できている9つの心理要因とそのマネジメントのポイントを紹介します。

本稿は「人事マネジメント2020年6月号」に掲載された記事を再編集したものです。

チームパフォーマンスを高めるマネジメント 第1回はこちら

その他のコラム・レポートはこちら

株式会社日本経営
取締役 人事コンサルタント 橋本竜也

1999年に入社後、一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チーム診断の必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究過程や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。


上矢印