調査レポート・コラム

パワハラ対策としての部下からの評価

部下からの評価が上司の行動を変える?

最近、当社にパワハラ対策の相談が寄せられることが多くなっています。ハラスメントに対する問題意識の高まりに加えて、長引くコロナ禍で社員のストレスが高まっていることも背景にあるのかもしれません。

その取り組みに差はあるとしても、多くの企業がそれなりにパワハラ対策は実施しているでしょう。しかし、次のような声をいただくことが多くなりました。

 ◇ 一般論としてのパワハラの知識の学習では不十分
 ◇ 管理職の行動変容につなげていかなければならない
 ◇ 部下の権利意識が高まりすぎて逆パワハラになっても困る

上司の行動変容につなげていくことが本質ということですが、研修だけでは効果が十分ではないということでしょう。そこでよくご相談いただくのが、部下からの評価を取り入れてはどうかということです。

部下が上司を評価することは上司評価と言われます。部下から上司だけでなく、その本人のさらに上司からの評価、同僚や他部署からの評価なども加えると、360度評価とか多面評価と言われます。こうした評価は様々なやり方はあるものの、一般的には匿名で実施され、集計結果が本人にフィードバックされます。本人に強い気付きを与え、行動変容を実現することが狙いです。

上司評価、360度評価、多面評価は人事考課の一環として行われることもありますが、昇格審査の一つとして実施されたり、自身の気づきにつなげる研修で実施されたりすることもあります。

部下や同僚からの評価を受けるというのはそれなりのプレッシャーがあり、結果を受けてショックを受ける人も少なからずいるのが実際です。そこから奮起して行動変容に変えるのは、想像以上に難しいものです。そのため、部下からの評価によって本人にポジティブな行動変容を促すというのは簡単ではなく、実施するのであれば慎重に進める必要もありますし、実施後のフォロー体制も重要になります。

特にパワハラに限らず、リーダーシップやマネジメントに課題があり、改善が必要と考えられている人ほど、部下からの結果は厳しくなります。厳しい結果を受けて前向きに改善するくらいであれば、その前から改善しているでしょうから、部下からの評価によって課題のある上司の行動を変えていくという方法は、十分な検討が必要でしょう。

部下からの評価をするなら項目設定は慎重に

部下からの評価については、「人気投票になり、上司が部下に遠慮する」という否定的な意見もよく聞かれます。実際のところ、評価者となる部下の人数が多いほど人気投票的な傾向は薄まるものの、上司が部下に厳しい姿勢を取りにくくなるとか、要求しにくくなるということはあり得ます。パワハラを抑制することを目的とするのであれば、確かに良い方法かもしれませんが、上司が委縮しないように気を付けることは大事でしょう。

そして、実施する場合には評価項目の選定も気を付けたいところです。「上司からパワハラを受けているか」だけをシンプルに聞くという方法も考えられますが、これだけだとただのパワハラの取り締まりのようで、評価を受ける本人にとってはただつらいだけです。せっかく部下からの評価を受けるのであれば、部下から指示されていることについてもフィードバックが得られるように、複数の項目を設定することが妥当でしょう。

評価項目を設定するときのポイントは、「部下が評価できる項目を設定する」ということです。当たり前のことのようですが、人事考課の項目をそのまま流用して、部下からは評価できない、または部下が評価するのはふさわしくない項目が並んでいる上司評価表をよく目にします。例えば、ビジョン・計画策定、経営参画、問題解決力、部下育成力などは、部下から評価するのは困難です。

結局、部下が上司を評価する場合には、コミュニケーションに関する項目が中心になります。例えば、相談応対とか、指示の仕方とか、指導の仕方とかでしょう。部下が上司の力量を正しく評価するというのは無理ですし、それを部下に任せるものでもありません。上司としての力は会社がきちんと評価する、部下からの評価は上司部下のコミュニケーションが適切かどうかを評価するという整理が必要です。

良い職場づくりを目的にして改善を進める

部下からの評価という直接的な方法で気付きを与え、パワハラを抑制するというやり方も一つですが、職場満足度調査やチームパフォーマンス調査の結果を向上させる責任を管理職に求めるという方法が効果的です。パワハラは職場やチームの状態を悪化させる一つの要因ですが、そのすべてではありません。

目的は「パワハラをしないことではなく、良い職場・チームを作り、維持すること」とするほうが、「パワハラをするな」というよりも前向きではないでしょうか。良い職場やチームを作るためには、当然パワハラをすることなど許されません。

「パワハラをするな」と言うと、本人は抑圧を受けているように感じますし、「自分はしていない」と反発心を持つこともあれば、「何がパワハラにあたるのか」と境界線をやたら気にしたりすることもあります。パワハラ防止のために部下からの評価を取り入れるとなると、そうした反発心やプレッシャーは余計大きくなり、前向きに取り組むことが困難になりかねません。

それよりも、職場満足度調査やエンゲージメントサーベイ、チーム診断の結果等をKPIにして、継続的に改善していくことを促すほうが前向きです。また、上司としても部下と協力してよい職場を作っていくという取り組みにしやすくなります。

こうした診断等の結果を人事考課の業績評価の一つとするかどうかは考え方によりますが、まずはデータをとって、このKPIを向上させていくことを促すことに取り組んでみてはいかがでしょうか。

弊社のNaviLightは手軽にチーム状態を診断することができ、1,2ヶ月ごとに定期的なチーム状態の把握をすることができます。当然、パワハラが横行するような職場だと良い結果を得ることはできません。パワハラ対策をきっかけに導入される企業も増えてきていますので、良い職場・チームづくりの可視化ツールとしてご検討ください。

パワハラにしてもセクハラにしても取り締まろうとするほど反発を受ける傾向があります。「あなたが問題です!」と厳しい指摘をするというアプローチではなく、「良い職場を作る責任がある」と迫っていくことで、より良い職場づくりを進めていくことが大事です。


上矢印