調査レポート・コラム

上司が部下と共有すべきこと

~聴くだけ上司ではチームの力を引き出せない~

チームマネジメントにおいて、上司(リーダー)にとって特に重要なことがいくつかあります。「目的・目標を共有すること」「取り組みの意義を伝えること」「部下(メンバー)の話をよく聴くこと」などです。しかし、日々のマネジメントにおいて非常に重要なことが意外と見過ごされています。それは、上司が「見解を示すこと」です。上司が自分の見解や考えを共有せず、部下の話を聴くだけでは、部下から「よく話を聴いてくれる」という評価は得られるかもしれませんが、部下やチームの力を引き出すことはできません。

部下の考えや思いを引き出すことに偏りすぎている

心理的安全性が注目されているように、上司は部下の意見や思いを引き出すこと、その意見や思いを否定せずに受け止めることの重要性は広く認知されるようになりました。反面、「上司の考えを押し付けてはいけない」といった考えが強くなりすぎ、上司からの発信の重要性が薄らいでしまっている気がします。

・指示はしても、どうしてその指示なのかを伝えていない
・自分の言葉で話していないので、結局上層部からの伝達のよう
・部下の話は聞くが、それに対する自分の考えを示さない
・そもそも自分の考えや意見、本音を部下に話すことがない

このようなことはないでしょうか?これらのことは、上司に対する部下の不満としてよく挙がる意見です。

心理的安全性は重要です。指示・管理型のマネジメントは限界であり、引き出し型のマネジメントが必要です。部下の意見や考えを受け止めなければチームになりません。しかし、リーダーの見解を示してはいけないということはありません。むしろ、こうしたマネジメントをするからこそ、リーダー自身の見解を示すことがより一層重要です。

聴くだけではチームはまとまらない

メンバーの意見を尊重し、チームとして成果を上げていくためのマネジメントの前提は、リーダーが見解を示すことです。この前提なしにメンバーの話を聞くところから始めたら、チームマネジメントは成り立ちません。チームの力を引き出すマネジメントにおいては、リーダーに次のようなスタンスが求められます。
・メンバーの力が必要だということを伝えること
・自分にもわからないことやできないことがあると認めること
・多様な意見を尊重すること
しかし、自分の見解を示さない上司がこのスタンスを徹底してしまったら、ただの“いい人”です。頼りない上司にしか見えないという恐れもあります。上司の考えを伝えずに部下の意見だけ聞くというマネジメントなどないのです。しかし、現実には見解を示す力不足しているリーダーが少なくありません。

見解とは目的やビジョンとは違う

チームを成果実現に導いていくためには、目的やビジョンが必要です。それに基づいてマネジメントは実践されますし、チームもその方向に進んでいきます。目的やビジョンがなければ、チームは進む方向が定まらず、大した成果を上げることもできません。だから、リーダーはチームが取り組むことの目的やチームのビジョンを語り、共有する必要があります。

しかし、ここで取り上げている「見解」は、目的やビジョンのことではありません。日々の様々な事象に対して、それをどのように捉えているか、どう考えているかを伝えることが、見解を伝えるということです。目的やビジョンがチーム全体の大きな方向性を示すのに対して、リーダーの見解はメンバーの判断や行動に大きな影響を与えます。

部下にとって上司の見解はとても重要

部下は良くも悪くも、上司が何を考えているのか、どうしようとしているのかに大きな関心を持っています。これは当たり前のことです。例えば、「自分が考えている企画の方向性は間違っていないか?」「上司が持っている課題感からすると、この取り組みを早く着手したほうがよいのではないか?」「上司がこの分野に関心を持っているなら、準備しておいたほうが与野ではないか?」このようなことを考えるのは当然です。

もし、上司の意図や考えを掴み切れずに部下が行動してしまうと、ロスが生じたり、着手した取り組みが中止になったり、アイデアが日の目を見なかったりしてしまいます。そうなれば、部下は受け身的になり、行動も徐々に抑制されていくでしょう。

逆に意図や考えが掴めていれば、もっと効果的に進められるし、上司や他のメンバーと協力して進めることもできます。そして、さらに重要な効果として、メンバー自身の主体性や自主性が強化されます。

上司こそ報・連・相せよ

上司の意図や考えをきちんと把握するためには、部下には報告・連絡・相談が求められます。上司の意図を把握せずに仕事を進めてしまい、失敗すると「なんで相談しなかったんだ!」と叱られるのは、よくある話です。報・連・相は、部下にとって組織の一員として重要な行動です。

しかし、上司は積極的に自分の考えや見解を部下に伝えているでしょうか。むしろ足りないのは、上司の部下への報・連・相でしょう。何かあるたびに自分の見解を示す、部下からの報告や相談があれば自分の見解を示す。上司の意図をつかみそこなっているのは部下の責任ではなく、きちんと伝えきれていない上司の責任だと捉えるべきです。

上司が部下に日々伝えるべきこと

特に重要なことは次の3点です。

1.自分の見解

お客様からの声、業務で生じる課題、業績の進捗など、仕事で起きるあらゆる事態に対して、それを自分がどう捉えているか、どのように解釈しているかを伝えることです。例えば、お客様からのクレームがあったものの、早急に対応したことで大事に至らなかったとします。これに対して、「本当によかった」はどう思ったかです。「これは他のお客様でも同じことが起きていると考えるべきだ。」というのが捉え方です。簡単に言えば上司の考えですが、「捉え方」を伝えることが決定的に重要です。「上司にはこの事態がどう見えているのか?」これは部下にとって重要な関心事であり、日々の判断や行動に影響を与えます。

2.今後の見通し

これから先どうなるのか、それが今後の見通しです。上司は部下が持っていない社内外の情報を持っています。それにより、部下には立てられない今後の見通しを立てることができます。「会社はこのように進んでいくから、うちのチームではこういう準備をしておこう」とか「ライバル会社のA社とB社が提携するという話が出ているらしい。まだ噂の段階ではあるが、競争が激化すると考えておいたほうがよさそうだ。」こうしたことが見通しです。はっきりしていない情報は出さないというスタンスの上司もいますが、チームマネジメントにおいては「はっきりしていない情報」を共有することが大事です。それは、部下を信頼しているということにもつながります。

3.進捗状況

上司自身が何かに取り組んでいる、取り組もうとしている場合、その進捗状況を部下に随時報告することです。上司自身が取り組んでいることであっても、その部下が全く関わらないということはほとんどありません。少なくとも影響は受けます。その進捗状況は随時部下と共有する必要があります。「全部完了してから伝える」、「まだ途中なので伝えないという」人もいますが、部下の側から見たときにどうでしょうか?また自分の部下の報・連・相がそういう状況だったらどうでしょうか?進捗状況を上司も部下も関係なく共有してこそチームです。

大切なことは、捉え方、不確定なこと、検討中のこと、考えていることを上司が発信することです。共有すべきは、上司の頭の中にあることなのです。部下とよくコミュニケーションをとっている人でも、共有する情報が「事実」だけであったり、部下の話を聞くことに偏りすぎていたりするケースがよくあります。

自分の見解を示さない上司に対して、部下は「何を考えているか分からない」と思うでしょう。何を考えているか分からないと、部下はどう動いていいのか、何をしたら正解なのかが分からないのです。それではチームマネジメントは始まりません。

上司には見解を示すことが求められますし、よりレベルの高い見解を示せるように物事の捉え方や考え方を磨く必要があります。上司の見識の高さはチームのレベルにもつながります。部下に見解を示し、チームマネジメントのレベルを高めていきましょう。

株式会社日本経営
取締役 人事コンサルタント 橋本竜也

1999年に入社後、一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チーム診断の必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究過程や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。


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