調査レポート・コラム

経営者の気迫

苦しいからこそ・・・

先日、ある飲食業の社長から「相談があるので時間を作ってほしい」とご連絡があり、約1年半ぶりにお会いしました。約1年半ぶりなので、最後にお会いしたのはちょうどコロナ禍直前のことになります。

この企業は相当数の店舗を展開している飲食業ですが、コロナ禍で売上が激減しています。テイクアウトや弁当を強化したりと、考えられる手を打ち尽くしてはいるものの厳しい状況です。

社長室に通され、社長をお待ちしているとホワイトボードが目に留まりました。びっしりと店舗名が書かれています。そして店舗名の横には予算と実績の欄があります。ところが、実績が空欄になっています。よく見るとこれからオープンする店舗の一覧でした。すごい数の店舗数でした。

「どうです?元気がある感じでしょう?」
「苦しいんですよ。でも、苦しいから苦しいと言っていても仕方がない。誰も助けてくれない。自分たちでやり切るしかないんですよね。」
「こうやって一気に出店して社員に対しても、社外に対しても”うちは元気です”ということを示さないといけない。仕入先様にも安心してもらわないといけない。」

隣のホワイトボードには感染対策を徹底し、安心してお客様に来ていただくための詳細なスキームが描かれていました。この時期に出店攻勢をかけるとなると一見博打のようにも思えるかもしれませんが、危機を耐え、資金も調達し、ノウハウや企画も練り上げて今から反転攻勢。ただ守るのではなく、守りながら考えに考えたうえで攻めに転じる。経営に対する執念を強烈に感じました。

一変していた社長室

もう一つ気付いたことがあります。一年半前にお会いした際には整然としていた広い社長室が、本や雑誌でいっぱいになっていたことです。本当にすごい数でした。とにかく考えに考え続けておられるということがよくわかります。朝から晩まで、四六時中、経営をどう立て直すかを考え続け、手を打ち続けているのでしょう。本当に必死に経営をされています。

経営者だから当たり前と思う方もいると思います。当たり前と言えば当たり前ですが、そう簡単なことではありません。コロナ禍で業績が厳しい企業は少なくありませんが、環境のせいにしたり、恨み節を言ったり、政府・行政の支援不足を嘆いたりするばかりで必死の努力ができていないという経営者や幹部、リーダーも多いと思います。苦しいとき、苦境に立った時にトップの真価が問われると思います。私自身、本当に必死に努力しているかと振り返る機会となり、大きな学びと刺激をいただきました。

リーダーは”希望”を示す

受け身の管理職と求められるリーダーの違いの一つに、「現実を示す」のか「希望を示す」のかということがあります。

「今は厳しい状況だ!」「他社も厳しい!」

このような現実は誰でも示せますが、従業員を鼓舞し、モチベーションを高めることはできません。リーダーに求められること、特に危機下でリーダーに求められることは現実を正しく捉えたうえで希望を示すことでしょう。

こちらの社長は、従業員に元気を与えなければならない、お客様に当社は元気だと伝えなければならない、取引先に安心してもらわなければならないとおっしゃっています。まさに希望を示そうとしています。

しかし、それは単なる楽観論でいいはずがありません。希望を示すために必死に努力をしなければならない。その努力が社長室には詰まっていました。

厳しい状況に置かれているリーダーの方々も多いと思いますが、メンバーに希望を示すために必死に努力すべき時にあると捉えるべきでしょう。

私自身ももっと努力しようと思いました。誰かの必死さは、また違う誰かの気持ちを動かしますね。

株式会社 日本経営
取締役・人事コンサルタント 橋本竜也

一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チームマネジメントの必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。


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