調査レポート・コラム

個人診断ツールを使いこなす難しさ

続々と生まれる個人診断ツール

ICTやAIなどの劇的な進歩により、個人診断ツールが次々に生まれています。ストレスチェック、モチベーション診断、エンゲージメント診断、幸福度診断といったものもあり、まさにありとあらゆるツールが生まれています。

ICTやAIなどシステムが進化し、その精度が上がっていくと、どうしても「人間を分析してみたい」という欲求が高まるようです。

こうしたツールは個人を的確に診断し、一人ひとりのマネジメントに活かそうという目的のものが多いですが、はたしてその目的をうまく果たせているでしょうか。

誰のための診断なのか、何のために使うのかという点で難しさがあると思いませんか?

個人診断は本人のため?上司のため?会社のため?

個人診断ツールの診断結果は、はたして誰のためのものなのでしょうか?

個人診断の結果は、上司部下面談(1on1)や上司の部下マネジメントに使われることが多いようです。そうなると、上司のためのものと考えることができます。

本人が結果を確認できれば、本人のためのものと考えることができます。ただ、その情報は果たして他人に知られたいものなのか、という問題もあります。

これだけ個人情報について敏感な日本です。自分のメンタルやモチベーション、会社に対する忠誠心、幸福度などが会社の一存でつまびらかになってしまうということに不安を感じる人も少なくないのではないでしょうか。もし、本人は結果を確認できず、会社や上司だけが確認できるということであれば、不安を超えて恐怖を感じるかもしれません。

そもそも、皆さんは次のようなことを上司に知ってもらいたいでしょうか?
・自分のストレス状態
・自分の仕事に対するモチベーション
・自分の同僚との人間関係
・自分の日々の体調の変化
・自分が実は会社を辞めようと思って準備していること
・プライベートが要因でちょっと不幸を感じていること
もちろん、「わかってよ!」「察してよ!」と思うこともあるかもしれませんが、あまり知られたくないこともあるのではないでしょうか。難しいもので、個人診断ツールの精度が上がれば上がるほど、こうしたことをより的確に会社や上司が把握できるようになります。実はここに、個人診断ツールの活用方法の難しさがあります。

個人診断ツールで上司部下関係は向上する?

個人診断ツールの主な活用方法は、上司部下の面談や部下のマネジメントです。そのため、当然ながら上司は部下の診断結果を知ったうえで、部下と面談したり、日々のマネジメントを行ったりします。

このような状態でいざ、1対1の面談。

上司「最近、仕事の状況はどうですか?順調ですか?」
部下「はい、おかげさまで、うまくやれていると思います。」
上司「そうですか。それはよかった。私も安心です。ところで、最近は上手くやれるようになってきたこともあってか、どうも同僚との関係に距離を置いているようだけど、どうかな?」
部下「いえいえ、そんなことはないです。うまくやっていますし、協力もしていますよ。」
上司「そうですか。ただ、診断結果によると、あなたの同僚への信頼が下がってきているようなんですよね。実際のところはどうですか?」
部下(え~・・・)

どうでしょうか?「お見通しだぞ」という状態での面談は、部下にとってもそうですが、上司にとっても思いのほか難しいでしょう。

個人診断ツールは、上司が捉えにくかった部下の本音や部下自身でさえ気づいていないような心理状態なども的確に把握することができるので、確かに上司にとっては非常に役に立つツールです。ただ、上司のマネジメントツールとしての役割に寄りすぎているように思われます。

個人診断ツールを有効活用するポイントとは?

以上を踏まえると、個人診断ツールを有効活用するためには、次のようなポイントがあると考えられます。

1.本人自身が自己メンテナンスと向上に活用する
2.本人自身の結果を上司が閲覧してよいか同意を得る
3.上司との面談では心理的不公平がないように上司部下双方が診断結果を開示する
4.上司の面談スキルを向上させる
5.上司が診断結果を悪用しないためのコンプライアンスルール設定や人間性教育を行う

個人診断ツールの精度が高まっている以上、こうした配慮や対応も必要でしょう。

上司面談による部下の依存度向上に注意

上司と部下の関係づくりや、仕事のマネジメントにおいて、上司・部下面談は非常に重要です。ただ、上司と部下の面談がマネジメント上重視されすぎると、上司に対する依存度が上がってしまう傾向があるので、注意が必要です。

例えば、上司と部下の関係が深まり、部下は「この上司になら本音で話をしても受け止めてもらえる」と信頼し、面談では色々な提案や本音の意見なども言うようになったとします。ところが、チームでミーティングをすると一切発言をしない、ということはよくあるケースです。

「この上司には本音を出せる」と思っているからといって、「このチームでは本音を出せる」とはならないということです。もしチームでの関係性がイマイチであれば、上司との関係性だけが強化され、依存が高まってしまう恐れがあるので注意が必要です。

さらに個人診断結果が活用されると部下と上司のある種の秘密の共有であり、依存傾向にある場合はその依存度を高めてしまいかねません。個人面談自体はとても重要ですが、面談の場の作り方や面談以外の場でのコミュニケーションなども工夫して、より良い信頼関係を作っていくことが重要でしょう。

さらに、あなたの仕事がチームワークが大切なのであれば、チーム自体の関係性を向上させるマネジメントも重要です。極端に言えば、「上司との面談ではなかなか本音を言いにくいけど、このチームでは自由な意見が言える」というほうが、チームとしての生産性は向上するでしょう。チームの雰囲気や関係性が個人のモチベーションに大きな影響を与えるので、あり得ない話ではないのです。

個人とチームのマネジメントはどちらも大事

ここまで個人診断ツールの危険性を強調してしまいましたが、うまく使えばもちろん大変効果的ですし、重要なツールです。特に、本人も気づかないような心身の疲労などが察知できるツールやコンディション向上のためのデータなどは、部下にとっても上司にとっても非常に役立てやすいでしょう。これからの時代、ICTツールもうまく使いながら、部下が最高のパフォーマンスを発揮できるように上司が支援することが非常に重要です。

一方で、個人のモチベーションの合計がチームの活性度になるわけではないという認識も重要です。チームにはチームのパフォーマンスを引き出すためのマネジメントが必要です。

その一番のポイントは何かというと、「チームの向上を一人ひとりが我が事意識で考え、取り組む」ということです。一人ひとりの主体性といってもいいかもしれません。どのような立場であっても、自分がチームのパフォーマンスや雰囲気に影響を与えていると自覚し、行動することです。

日本経営ではチーム診断のツールとしてNaviLightを提供していますが、一人ひとりが自分のチームに主体的に関われるように、次のような工夫をしています。

◎診断結果が全員一斉に届く
 リーダーだけが知っているという状態にしないことで対等の関係を築く

◎誰がどう答えたかは誰にも分からない
 犯人探しではなく、自分がどうすべきかに関心を向けさせる

◎チーム状態をキャラクターで表示する
 分析的アプローチに陥るのを避け、どう感じるか、どうなりたいかから取り組みを始める

このような工夫で一人ひとりのチームに対する我が事意識をため、チームの対話を促し、チームパフォーマンス向上につながるようになっています。個人のマネジメントの他に、チーム自体のパフォーマンスマネジメントに取り組みたい方は、ぜひお試しください。


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