調査レポート・コラム

モチベーションアップを実現するリーダーの実践手法

動機づけ要因と衛生要因

「部下のやる気を上げたい」
「部下のモチベーションアップが課題」
「どうしたら部下のモチベーションを上げられるのか?」
多くの管理職やリーダーから聞かれる言葉です。どうすれば部下のモチベーションアップを実現できるでしょうか?

心理学者ハーズバーグの二要因論では仕事の満足度に与える要因を動機づけ要因と衛生要因に分けています。

動機づけ要因はいわゆるモチベーションアップ要因で、「達成」「承認」「責任」「仕事そのもの」「成長(成長実感)」などとされています。

衛生要因とは満たされているからといってモチベーションアップにつながるわけはなく、むしろ不十分だと不満につながる要因のことです。そのため、不満要因とも言われています。「企業ビジョン」「方針」「労働条件」「作業環境」「給料」「人間関係」などとされています。

このことから、部下のモチベーションアップには、動機づけ要因の充足や向上につながる取り組みが重要だということになります。例えば、次のようなことでしょう。

・客数などを日々の目標に設定し、達成したら皆で分かち合う。(達成)
・キャリアステップを明確にして、何ができるようになったかをお互いに確認する。(成長実感)
・良い提案やチャレンジを褒める。(上司・同僚からの承認)
・権限委譲して、自分で判断できる裁量を増やす。(仕事の責任)
・顧客からの喜びの声を本人に伝える。(顧客からの承認)

このように、日常のコミュニケーションや仕組みの中に「達成」「承認」「責任」「成長」などが感じられるように工夫するとモチベーションアップが期待できます。

社員のモチベーション向上をうたって、経営理念の共有や給与システムの変更、職場環境の改善などに取り組む企業もありますが、これらは不満の解消であってモチベーションには直結しません。もちろん、こうした取り組みは不満の解消につながるので重要ですが、モチベーションアップとは分けて考える必要があります。(給与システムにモチベーション要因を内在させる工夫などはあります)

ただし、どれだけモチベーションを上げようとしても、不満が多ければ、モチベーションどころではありません。不満要因は解消し、モチベーション要因を刺激するということを基本と考えるとよいでしょう。

ハックマンの職務特性モデル

動機づけ要因の中に「仕事そのもの」があります。やはり、会社においては仕事そのものが魅力的であることが重要ですし、仕事そのものがモチベーションにつながることが理想的です。その具体的なヒントになる理論として、ハックマンの職務特性モデルという理論があります。職務特性モデルは、5つの職務特性が高い次元で充足されているほどその仕事の魅力が高く、仕事そのものがモチベーション要因として強化されるという理論です。

その5つは次の通りです。

「技能多様性」職務を遂行するために必要な技能・技術、能力の多様性の程度
「タスク完結性」業務の全体に関われる程度(一部だと完結性が低い)
「重要性」その職務が顧客や社会、会社に与える影響度
「自律性」職務遂行のために認められている裁量の程度
「フィードバック」職務遂行の結果についてフィードバックを受けられる度合い

例えば、医師という仕事を職務特性モデルを使って、分析してみます。

  技能多様性       様々な技術や知識を必要とする業務であり、技能多様性は高い。
タスク完結性主には診療を担うが、受診、検査、診断、治療、入院療養、退院までの全てに関わる仕事である。
重要性命にかかわる仕事であり、誰から見ても重要性が高い仕事である。
自律性すべての診療は医師の指示のもとに行われる、極めて裁量と責任が大きい仕事である。
フィードバック自分の治療の効果が患者に反映され、また患者からの感謝やクレームも直接的に受けるため、フィードバックは十分。

このように、医師は職務そのものが非常に魅力的であるということができます。一般的に医師はモチベーションが高い人がいますが、本人の資質やマインドもさることながら、仕事そのものがモチベーションにつながりやすいということができます。

医師のように、特別なことをしなくても仕事そのものが魅力的であるということもあります。でも、一般的な仕事であっても、職務特性モデルを参考にすれば、仕事の魅力を高めることができます。そこで、5つの職務特性についての工夫を解説します。仕事のやりがいや魅力を高めたい方は参考にしてみてください。5つすべてではなくても、いくつかの職務特性を工夫してみるだけでも効果が期待できます。

  技能多様性        できる限り複数の技術・技能が必要な仕事に組み立てる。技術・技能がシンプルなのであれば、継続的に新技術を取り入れていく。
タスク完結性たとえ一部の仕事を担っていたとしても、全体の進捗が分かるようにしたり、自分の担当以外のことでも提案や意見を述べたりできるようにする。
重要性自分たちの仕事の意義や効果、期待などをリーダーが発信し続ける。もし自分たちの仕事がなければ誰がどのように困るのかということを共有する。
自律性できる限り現場の判断で仕事が進められるようにする。決定権は与えられなくても、提案や意見を言える機会を作る。
フィードバック仕事には必ず提供している相手がいるので、顧客の声、他部門の声、取引先の声などを集めて本人に伝える。自分の仕事の結果を確認できる機会を作る。

重要性やフィードバックなどは、どのような仕事であってもかなり工夫できるのではないでしょうか。重要性については仕事の意義づけを意識することでだいぶ変わります。例えば開発部門の人が実際に顧客が製品を使っている場面を見に行くと、仕事の意義もフィードバックも実感できるはずです。その仕事に合った職務特性モデルの工夫が考えられるはずですので、皆さんの仕事もぜひ上記に当てはめて検証し、工夫してみてください。


とにかく、企業におけるモチベーションの最重要ターゲットは、仕事そのものであることは、基本中の基本です。

上司が実践すべき部下のモチベーションアップ術3選

ここまで、動機づけ要因や職務特性モデルからモチベーションアップにつながるポイントを説明してきました。それらも前提としながら、ここでは上司がすぐにできるお勧めのモチベーションアップ術を3つ紹介します。

相談する

部下に相談してみてください。相談は部下の承認欲求に働きかける方法の一つで、モチベーションアップにつながります。承認はハーズバーグのモチベーション要因の一つです。承認というと「褒める」ことを想像する人も多いですが、褒めるだけが承認ではありません。また、褒めるというのは、ある意味では使う場面が限られてしまいます。

例えば、新入社員が先輩を褒めたり、部下が上司を褒めたりすることがあるでしょうか。「課長、最近お客様対応の腕を上がりましたね。」なんて部下が言ったら、課長は嫌味だと思うかもしれません。腹が立つかもしれませんし、ゴマすりだと思うかもしれません。(そもそも、そもそも上司のモチベーションを上げてやろうという部下はなかなかいませんが・・・。)

つまり、「褒める」というのは暗に上下関係を前提としているのです。また、ある程度仕事ができるようになった人にとっては「今され褒められてもうれしくない」という心理が働く場合もあり、モチベーションアップにつながらないことも多いのです。ところが、相談は対等の関係を前提としています。必要とされている実感につながり、モチベーションアップも期待できます。承認とは必要とされている実感なのです。特に自分が尊敬している人や認めている人から相談されれば、必要とされている実感はさらに高まるでしょう。社長から若手社員が相談されれば、「期待されている!」とモチベーションアップにつながるでしょう。

ただし、「君の意見を言ってみなさい」という感じだと、指示のように感じられることもあります。そのため率直に相談するというイメージのほうがよいでしょう。「得意先からこんな要求をされていて、うちでできるかどうか難しいと思っているんだけど、君はどう思う?」モチベーションの高いチームのリーダーは、よく相談しています。メンバーどうしも相談し合っています。決めて、伝えるという一方向ではなく、相談をコミュニケーションに取り入れてみてください。

仕事の意義を伝える

自分たちの仕事やビジネスが誰に、どのように役立っているのか。当たり前のことのようですが、意外とわかっていないこともあります。普段から自分たちの仕事の意義を伝えることは思っている以上に効果的です。ある清掃事業の企業経営者が、社員が「ゴミ屋さん」と言われていることに心を痛め、自分たちの仕事を「環境創造業」と定義したことで会社が変わったという話があります。自分たちの仕事がどのような意義があるのか、それは関わる人の心を鼓舞します。ぜひ、仕事の意義を伝えてください。

意義と言われても難しいと感じる人は、「もし自分たちの仕事がなかったら?」と考えてみることもヒントになります。必ず困る人がいるはずです。それこそ仕事の意義につながるものです。

また、リーダーはあらゆる場面で、その意義を伝えることはとても重要です。メンバーのモチベーションにも影響します。例えば、リーダーの重要な使命に目標達成がありますが、目標達成することの意義を伝えることは部下のモチベーションのアップに効果的です。

ただし、この時に注意すべきことがあります。それは、意義付けは外向きでなければならないということです。例えば、課長が部下に対して、
「予算達成は重要だよ。達成すれば、会社からも評価されるし、ボーナスも期待できるからね。」
と目標達成の意義を語り、モチベーションアップをけしかけたとします。しかし、もし予算達成したものの、思ったほど会社から評価されなかったり、ボーナスもほどほどだったとしたらどうでしょうか。完全に不満になります。これは外向きの意義づけではなく、内向きの意義づけです。

外向きの意義づけだと、例えば次のようになります。
「予算達成するということは、それだけ多くの人が、テレワークを効果的に実施できるようになるということだね。」(テレワーク用のツール販売企業の場合)
といった伝え方になります。

企業や各部門・部署などどの単位においてもそうですが、組織や個人が内向きになると、顧客対応、人間関係、待遇満足度などに必ず問題が起きます。これらは、不満要因になり、モチベーションアップを妨げます。

仕事の意義を自分以外にする習慣は、内向き志向になることを防ぎます。あらゆる場面で、外向きの意義づけをすることを意識することをお勧めします。

感想を伝える

 コーチングにIメッセージという技術があります。これは主語が「私」になるメッセージのことで、主語が「あなた」になるメッセージをYouメッセージと言います。部下が成果を出したときや貢献したときなど、褒めるような場面で、積極的にIメッセージを使ってください。例えば、営業で大型案件を部下が受注してきたとします。

Iメッセージ「受注おめでとう。それにしてもよくあの企業から契約を頂けたな。正直あそこは無理じゃないかと思っていたんだ。私もうれしくて仕方がないよ。」

Youメッセージ「受注おめでとう。よくがんばったね。すごいじゃないか。これで君の成績もグンと上がったね。引き続き頼むよ。」

Youメッセージが悪いということではありません。ただ、どこか評価しているという感じになったり、上から目線の印象を与えます。Iメッセージのほうが相手に伝わりやすく、心に残りやすいとされています。上記の例でも、Iメッセージを受けた本人は、後々も「あの時、部長がだいぶ喜んでくれたんだよなぁ」と場面として印象に残りやすいのではないでしょうか。

意識しなくても、自然にIメッセージを使っている人もいます。例えば、お客さんからの評判が良い人のコミュニケーションを観察してみてください。自然とIメッセージを使っていることも多いので、参考になります。

IメッセージとYouメッセージを区別するのが難しければ、褒めるときには自分の気持ちや感想を伝えるようにするといいでしょう。

上司がモチベーションを引き出せるのか

ここまでモチベーションアップについて仕事の組み立て方や上司の関わり方を述べてきました。しかしながら、そもそも部下のモチベーションを引き出すことはできるのでしょうか?

あなたはどういうときにモチベーションが上がりますか?それこそ人それぞれでしょう。仕事に関わることだけでなく、休日に向けてモチベーションを燃やす人もいるかもしれません。そう、根本的にモチベーション要因は人によって違うのです。人によってモチベーション要因が違うのに、それぞれに合わせてモチベーションを上げるというのは、現実的には相当困難です。

他人のモチベーションを上げてやるなんて、そもそもおこがましいことなのかもしれません。
結論的に言えば、誰もがそれなりにやる気やモチベーションがあるのです。特に仕事ですから、温度差はあってもそれなりにきちんと仕事をしようとして会社には来ているはずです。それなのに上司は、もっとモチベーションを!と思ってしまう。それはどうしてでしょうか。

それは、モチベーションを発揮できる職場やチームになっていないからです。場合によっては、やる気やモチベーションを削ぐような職場・チームになっている恐れもあります。

一人ひとりのモチベーションアップに取り組むことは大事ですが、それだけでは期待するような状態にはなりません。まずは部下がモチベーションを発揮できる職場やチームにすることを考えてみてください。

やる気を邪魔するな

そもそも、人はそれなりにやる気を持って仕事に取り組んでいるのですから、そのやる気を削がないことが重要です。もし、あなたの職場が次のような状態になっていたら、やる気を削ぐ職場になっている恐れがあります。

  • 一生懸命に取り組む社員に「そこまでやる必要はない」と言う人がいる職場
  • 成果があっても「それくらい当然」とばかりに喜んだり、認めたりしないしらけた職場
  • パワハラやセクハラがある職場
  • 結果が悪いと「根性が足りない」など、精神論だけで追及する上司や先輩がいる職場
  • 顧客をバカにしたり、笑いものにするような職場
  • 部下の手柄や成果を横取りする上司をあきらめている職場
  • 新しい提案を受け入れない保守的な職場

上記の例は極端ですが、どの職場でも一つや二つ、似たようなことがあることが少なくありません。こんな職場にいたら、たとえやる気満々で入ってきた社員だって、数日のうちにやる気を失うでしょう。

あなたの職場はどうでしょうか。「私はこんなことはしていない」というリーダーや管理職がたくさんいらっしゃるでしょう。管理職研修等でもパワハラはいけないということはだいぶ指導されてきていますし、管理職自身がパワハラ的なことをしたり、不適切な対応をすることはないかもしれません。

しかし、問題はあなたがそうしているかどうかではなく、職場全体がどうなっているかなのです。上記のような態度をとる人がいて、それが放置されていれば、どれだけモチベーションアップを働きかけても、必ずその職場は停滞していきます。むしろ、上記のような状態を放置したままで上司がモチベーションアップに取り組めば取り組むほど、部下はその矛盾に耐えきれなくなってしまうでしょう。

逆を考えてみてください。
誰もが顧客を大事にすることに同意しているし、実際にそのような行動をとっている。
誰もがチャレンジが大事だと考えていて、実際に提案があれば歓迎する。
ノウハウを共有し、相談しながら仕事をしている。
例えばこんなチームであればやる気を失わずに仕事に取り組めるでしょうし、少々やる気を失っている人であっても、影響を受けて前向きな行動をし始めるかもしれません。

まずやる気を削ぐような職場にしないこと、そして、モチベーションが発揮できる職場にしていくことが重要です。

やる気を発揮できる職場にする

モチベーションが発揮できる職場にするには、そのためのマネジメントが必要です。一人ひとりを動機づけたら、モチベーションを発揮できる職場やチームになるかといえば、そうではないのです。また、管理職やリーダーだけが頑張っても、職場は形成されません。メンバー全員でモチベーションが発揮できる職場にするように取り組むことが重要です。

メンバーが本来持っているやる気を発揮できる職場やチームにするために効果的なポイントを、弊社では9つの心理要因として整理しています。これらの心理要因の満足度が高まるほど、チームの成果につながる主体的行動の発揮が促進されるということを弊社では理論的整理し、検証し、明らかにしています。そのため、これらの心理要因をメンバーが共通で認識し、協力して高めていくことが重要です。9つの心理要因は次の通りです。
「心理的安全性」「チームへの愛着」「目標共有」「メンバー信頼」「チャレンジ精神」「仕事のやりがい」「プロセス重視」「顧客重視」「チーム貢献への自信」

心理要因を高めるためのマネジメントについて、詳しくはこちらに記載していますので、関心がある方は是非ご覧ください。行動そのものを促すよりも、主体的行動を発揮できる職場やチームの状態を作り上げること。しかもそれは、上司やリーダーが一人で成し遂げるのではなく、メンバー全員の共通認識のもとに、協働して作り上げるということが重要です。

もし、自分の職場やチームがどのような状態にあるのかをまずは把握してみたい。職場やチームの状態に応じて、心理要因をマネジメントして、メンバーがモチベーションや主体的行動を発揮できるようにしたいと思われる方は、弊社のNaviLightをお試しください。

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