脳科学の視点で考えるモチベーション
人のマネジメントの領域において、脳科学の知見が活用されることが増えてきました。そこで、多くの人が関心のあるモチベーションについて、神経伝達物質として代表的なドーパミンとノルアドレナリンを中心に、脳科学的な視点から考察します。
ドーパミンとノルアドレナリン
モチベーションを脳科学的に解析すると、ドーパミンとノルアドレナリンが重要とされていますが、一般的なモチベーションのイメージは、ドーパミンの効果がイメージしやすいでしょう。
ドーパミンは神経伝達物質の一つで、ドーパミンが放出されるとやる気や幸福感などを感じられるとされています。ドーパミンは目標に向かわせるときに放出され、意図しない情報を減らすという効果があります。そのため、比較的中長期的な目標に向かって取り組むときには、ドーパミンが出ているとよいと考えられます。
ノルアドレナリンも神経伝達物質の一つですが、不快や不安、危険などを感じたときに放出されます。ノルアドレナリンの効果は闘争と逃走と言われ、要するに「危ないから早く逃げろ!」という脳のモードにする効果があります。それとモチベーションがどういう効果があるのかと思われるかもしれませんが、例えば締め切りギリギリで仕事を完成させるべく取り組んでいる状態、危険な作業をしている状態などは、ノルアドレナリンのモチベーションで仕事をしていると考えられます。
ドーパミンが中長期目標の達成に向かうのに重要な役割を果たすのに対して、ノルアドレナリンは短期目標の達成に向かうのに重要な役割を果たすと言えるでしょう。仕事においてはどちらも大切なのです。
ドーパミンとノルアドレナリンと関係の深い神経伝達物質
ここでドーパミンやノルアドレナリンと関係の深い神経伝達物質やホルモンについても解説したいと思います。上記の図を参考にしてください。
ドーパミンを誘発するホルモンとして、オキシトシンがあります。オキシトシンは人とのふれあいやつながりを実感したりすることで分泌されるホルモンです。つまり、人との交流はモチベーションの向上にもよい影響があると考えられます。
また、オキシトシンはセロトニンも誘発するとされています。セロトニンは安心感や落ち着きなどをもたらし、ドーパミンとノルアドレナリンの過剰分泌を抑える働きをしてくれます。
セロトニンは朝日を浴びることで正午くらいまでの間に上昇していき、そこからゆっくりと減っていくとされています。リズム運動などでも分泌されるということなので、朝日を浴びることやリズムよく動いたりすることで分泌が増え、ドーパミンやノルアドレナリンのバランスを取ってくれます。
ノルアドレナリン過多はリスクも
締め切りに追われていたりすると必要なノルアドレナリンですが、ノルアドレナリンが出続けている状態は脳にあまりよくないようです。
ノルアドレナリンは不安や不快などに対して分泌されるので、ストレスがかかった状態ということができます。このストレスがかかった状態に対抗するため、ノルアドレナリンが分泌されるとコルチゾールというホルモンが増加します。コルチゾールがストレスに対抗してくれるのですが、コルチゾールが出続けると脳でエピソード記憶を保存する海馬にダメージを与えるとされています。
そのため、ノルアドレナリンベースのモチベーションも重要なのですが、そればかりだと脳にもダメージを与えかねないので注意が必要です。いつも締め切りに追われ続けているような仕事だと、精神的によくないということはイメージがつきやすいですよね。精神的にというのは、脳科学では「脳に悪い」ということです。注意したいところです。
ドーパミンもノルアドレナリンも大事
結局のところ、理想の状態はドーパミンもノルアドレナリンも適度にバランスよく出ている状態を継続することと言えるでしょう。ドーパミンだけでモチベーションを継続することはできないし、ノルアドレナリンだけでも疲弊してしまいます。
ただ、ノルアドレナリンは自然と分泌される状況が仕事には潜んでいるかもしれません。例えば次のようなことです。
- 締め切りに追われて大急ぎで仕事を終わら差なければならない。
- 怖い上司に管理されている。
- 危険な現場で仕事をしている。
いつも締め切りに追われながら仕事をしていて、ハイテンションな人もいるかもしれませんが、そういう人はノルアドレナリンベースでのモチベーションになっている可能性があります。そればかりだと持たないことは想像できますね。
ドーパミンベースのモチベーションをどうやって作るか
ドーパミンは目標達成に向かわせるときに重要な役割を果たす神経伝達物質です。そのため、一般的に想像されるモチベーションにおいては、ドーパミンの増加によるモチベーションを考えたいところです。
ドーパミンは楽しいとき、ワクワクしているときなどに分泌されるとされています。ということは、仕事を楽しんだり、ワクワクしたりするとよいということになりますが、仕事はそんな仕事ばかりではないですね。
そこで、仕事をする際には目的を意識すること、前向きな意義づけをすることなどがドーパミンを維持することに大事になると考えられます。「この目標を達成したら大きな達成感を得られるのではないか」といったイメージを持つことも大切ですね。
また、脳は過去の出来事から判断するので、結果がわからないこと、未知のことに対しては不安を感じるようにできていると言われます。新しいことにチャレンジすることに不安を感じるのは、基本的には正常な脳の機能と言えます。
そこで、チャレンジをした際には結果がよかろうと、悪かろうと、そのプロセスを振り返り、チャレンジのプロセスの中で得られたことをポジティブに捉えるという習慣が重要です。これは、チャレンジ自体が意義あることだと脳に記憶させることにつながるからです。
結果が出なければ意味がないといった極端な考え方をしてしまうと、脳にはそのように記憶が蓄積されてしまいます。そうすると、よい結果が出ると見通しが立つことしかやらなくなってしまいます。つまり、未知のことに対してワクワクすることができない、ドーパミンベースのモチベーションを作りにくいということになってしまうからです。
リーダーは意義・目的をメンバーに伝えよう!
リーダーにとって、取り組むことの意義や目的を伝えることの重要性はすでに一般的になっていると思います。素晴らしいリーダーはあらゆることに意義を見出す力があり、メンバーにそれを腹落ちさせる力があります。これは脳科学的には、メンバーのドーパミンベースのモチベーションを支えていると考えられます。
一方で、いつも追い込んでばかりのリーダーもいます。これはこれで一時的にモチベーションが上がっているかに見えますが、中期的には疲弊させてしまいます。これはノルアドレナリンベースのモチベーションに影響を与えているからと考えられるわけで、もしかしたら脳にダメージを与え続けているのかもしれません。
前述の通り、目的を意識して仕事をしたり、自分の取り組みに前向きな意義づけをすることはドーパミンベースのモチベーションに有効であり、中長期的な目標達成に向かわせる大きな助けになります。ただ、これを自分の力だけで維持するのは難しいかもしれませんし、人によっては自分の仕事の意味や目的を見失ってしまうこともあるかもしれません。
そこで、リーダーは何事にも目的や意義を伝えること、伝え続けることが大事です。それがチームやメンバーの目標達成への意欲を高めます。
さらに、結果至上主義ではなく、プロセスも大事にすること。チャレンジ自体に意味があると感じられる人が増えていけば、さらにチームの力は高まるでしょう。
皆さんのチームはノルアドレナリン過多のチームになっていませんか?ドーパミンも分泌して、ワクワクしながら目標達成に向けて取り組めるといいですね。