調査レポート・コラム

強力なビジョンが、部下の積極性を奪う?

「日本一のサービスを目指そう!」「私たちが世界を変えるんだ!」「圧倒的品質で、顧客に感動を提供しよう!」こんな胸躍るようなビジョンを示せば示すほど、部下が消極的になるとしたら、ちょっとショックではないでしょうか?

チームマネジメントにおいてリーダーが魅力的なビジョンを発信することはとても重要です。また、そのビジョンや方針に基づいて意思決定やチーム運営をしていくことで、チームの一体感が生まれたり、パフォーマンスを高めたりすることができます。ところが、上司が強力なビジョンを打ち出すほど、部下が消極的になる場合があり得るという研究があるのです。意外ですが、この研究には上司やリーダーがチームマネジメントをする上で、押さえておきたい重要なポイントがあります。

メンバーの積極性とリーダーのビジョンに関する研究

「メンバーの積極性とリーダーのビジョン」に関する研究(MA Griffin, SK Parker, CM Mason, 2010)で、次のことが指摘されています。

①自己効力感が高い人は、強いリーダービジョンがある場合、1年後の積極性が高くなっている。
自己効力感が低い人には、強いリーダービジョンが1年後の積極性に負の影響を与える可能性がある

この研究では、強力なビジョンは自己効力感の高い人に対しては積極性を高める効果があるものの、自己効力感が低い人に対しては、むしろ消極的にさせてしまう可能性があると指摘していることが興味深いところです。

よく考えてみると、確かに思い当たることもあるのではないでしょうか。大きな夢を語ったり、刺激的なビジョンを掲げると、周りが少し引いてしまうとか、盛り上がるメンバーがいる一方で、どこか冷めてしまうメンバーがいるとか。

このようなメンバーの中には、自己効力感が低い人がいる可能性があります。

自己効力感とは、「担当業務で成果を出せる自信」とか「チームの一員として、チームに貢献できる自信」ということです。こうした自信があまりない人が強力なビジョンをリーダーから示されると、ひるんでしまったり、「私なんて・・・」と思ってしまいかねないことは確かに想像できます。

強力なビジョンばかりがいいわけではない

ワクワクするようなビジョン、夢のようなビジョン、挑戦的なビジョン、野心的なビジョンは確かにチームの結束を高め、人のやりがいを引き出す効果が期待できますが、そのようなビジョンが常に効果的というわけではないことをリーダーが知っておくことは、マネジメントのレベルアップにつながるでしょう。

とは言え、ありきたりのビジョンを掲げるのは抵抗があるかもしれませんし、そんなビジョンでチームを成長させられるのかと疑問に思う人もいるはずです。実際、ビジョンを弱めるというのはあまりお勧めできません。ポイントは、チーム状態に応じたマネジメントをするということです。

チーム状態に応じたマネジメント

1.自己効力感を高めることが先決

何よりも大事なことは、メンバーの自己効力感を高めることです。自己効力感の基本は「自分は仕事で成果を出せる」といった自信をつけさせることでしょう。

仕事で成果を出すためには仕事ができるようにならなければならないわけですが、新人や仕事が軌道に乗っていない人にとっては自信を獲得するのが難しいかもしれません。そうした人に対しては、大きな目標を意識させつつ、身近な目標を達成させることで自信をつけさせていくことも必要でしょう。

例えば、営業であれば受注が目標でしょうが、アポどり、提案など、まずはここまでできるようになろうという段階を目標にして、それを達成することで自信をつけさせていきます。目の前のことを一つ一つクリアしていった先に大きな目標の達成があると感じられれば、大きな自信をつけるまでは至らなくても、自己否定感につながることは少ないはずです。

2.自己効力感が得られやすいチームの雰囲気を作る

「自分はチームに貢献できる」という自信も重要な自己効力感です。そこで、自己効力感が感じられるチームの雰囲気を作るということも重要です。

自己効力感が感じられるというのは、「必要とされている実感」が得られるチームと言うことができます。すごく基本的なことで言えば「挨拶」です。挨拶がないということは無視と同じであり、挨拶がないチームは自己効力感を下げてしまいかねません。

挨拶を受ける、感謝の言葉をかけられる、提案を歓迎される、うまくいったら称賛される、こうしたチームの雰囲気は自己効力感をくじきにくく、高める効果も期待できます。

もう一つ、「必要とされている実感」が得られやすい効果的な行動が、「相談を受ける」ということです。相談は「あなたの意見が必要だ」というメッセージを具体的に示す強力な行動です。上司が部下に相談したり、ベテランが経験の浅い人に「意見を聞かせてほしい」と言ったりすれば、必要とされているということを強く感じられるでしょう。

よいチームは互いに相談し合っています。そうした具体的な行動を通じて、自己効力感が高まるチームの雰囲気を作っていくことが大事です。

3.自己効力感に応じたメッセージを発信する

自己効力感の高さに応じてビジョンの打ち出し方や伝え方を工夫することも重要です。自己効力感が低い人が多い中で強力なビジョンを打ち出しても逆効果になる可能性があるからです。

もし、チームのメンバーに自己効力感が低い人が多ければ、強力なビジョンを打ち出すだけでなく、少し分解して身近なビジョンも打ち出していく工夫が効果的でしょう。

例えば、「世界一!」は掲げ続けるとしても「まずは関東NO.1を実現する!」といったことです。「世界を変える!」というビジョンを打ち出しつつ、まずは「今、目の前にいるお客様に感動を与える」といった打ち出し方もできるかもしれません。

ポイントは刺激的なビジョンを掲げているとしても、「やりたい」「自分もできる」とイメージできるビジョンも提示することでしょう。

メンバーの自己効力感を高めていきながら、自己効力感をくじかないチームの雰囲気を作り、さらにビジョンの打ち出し方や伝え方も工夫していくことが理想的です。

メンバーの自己効力感は変動する

自己効力感はビジネス環境の変化や担当顧客や担当業務の変更、新技術の導入や新たな知識習得の必要性などによって上がったり、下がったりすることがあります。自己効力感が高い人は比較的安定する傾向がありますが、それでもスランプだってあります。

新人が入ってくれば、チーム全体の自己効力感が下がってしまうこともあります。

このように自己効力感は変動するものなので、チームの状態に合わせてビジョンの打ち出しやビジョンにまつわるメッセージを少しずつ調整することが、メンバーの積極性を高めることにつながります。

このようなマネジメントを実施するにはメンバーの自己効力感を把握することが重要です。
チームパフォーマンス診断ツールNaviLightなら、この自己効力感を的確に把握することができます。

NaviLightではチームパフォーマンス向上につながる9つの心理要因を把握することができます。その心理要因の一つとして「チーム貢献への自信」があり、メンバーの自己効力感をタイムリーに把握することができます。チームは生き物です。自己効力感に限らず状態に応じてマネジメントをしていくことが重要であり、これからの時代はこのようなガイドツールでチーム状態を把握しながらマネジメントの効果を上げていくことも重要ではないでしょうか。

今までのマネジメントは、リーダーの資質や経験でチーム状態を把握し、それに応じてマネジメントをしてきました。これに加えて、チーム状態やその変化を可視化すれば、さらにマネジメントのレベルは上がるはずです。

NaviLightは無料トライアルも可能ですので、ぜひ一度お試しください。


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