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コロナ禍に必要なマインドセットとは?

               ~フランクルに学ぶ希望の大切さ~

長引くコロナ禍で、多くの人がつらい状況に置かれています。コロナ禍の少し前から、現代はVUCA(不安定、不確実、複雑、不明確)の時代で、先が見通しにくく、変化の激しい中でのマネジメントや個人のマインドセットを考える必要があると言われていましたが、コロナ禍がまさにその現実をまざまざと見せつけているように思います。

この困難な状況であっても、できる限り前向きに過ごすにはどうすればいいのでしょうか?

フランクルが説く生きる意味の大切さ

ヴィクトール・フランクル(1905~1997)という有名な心理学者がいました。フランクルはナチスドイツの強制収容所アウシュビッツに送られ壮絶な体験をしていますが、その中で、生き残った人と(殺害以外で)亡くなってしまった人の違いを分析しています。その違いは、「生きる意味を見失わないこと」「絶望的な状況でも希望を失わないこと」だとしています。

象徴的な出来事が、1944年のクリスマスと1945年の年明けの大量死だったといいます。クリスマスには解放されるという噂が広まったものの、結局解放されませんでした。そのことに期待していた人たちは大いに落胆し、あっという間に崩れてしまったというのです。年明けに開放されると期待していた人たちも、同様に崩れてしまいました。

解放されるまで生き延びたフランクル自身は、もし解放されたら多くの論文を書くという希望を持ち続けたといいます。

フランクルのこうした考察は「夜と霧」という著作にまとめられていますが、これがこのコロナ禍で注目を浴びています。もちろん、コロナ禍はアウシュビッツではありませんが、行動が制限され、この先どうなるのかわからないという状況は、同じようなシチュエーションがあると思います。

今、新型コロナに対するワクチン開発に大きな“期待”が寄せられています。しかし、猛スピードでの開発ですから、今後何が起きるかわかりません。残念ながらあと一歩のところで中断ということもあるかもしれません。そのようなことになった場合、ワクチンに過度に“期待”している人のメンタルが心配です。

フランクルに学ぶとすれば、ワクチンの供給に期待するのではなく、ワクチンが供給されたら何をするかの希望を持つことが重要なのではないでしょうか。

改めて“期待”について考えてみる

辞書によると「期待」とは「あることが実現するだろうと望みをかけること」「あてにして心待ちにすること」といった意味だとされています。期待という言葉には、どこか他者依存的な意味合いが含まれているように思います。もちろん、「自分に期待する」という使い方もしますし、「あなたのことを期待している」という場合はポジティブな意味合いが強いですが、自分のコントロールが及ばないことについて使うケースが多いでしょう。

この「自分のコントロールが及ばないこと」に依存しすぎてしまうと、受けるショックが大きくなりすぎますし、何より、自分の努力ではどうにもならないので危険です。

期待をしないというとどこか割り切った感じもしますが、「期待しすぎず、希望を持つ」というマインドセットが重要なのでしょう。

希望を持つ、経験に意味を見出す

経営者の書籍などを読むと、不景気の際にはできる限りの準備をして、景気が回復してきたら一気に走り出す準備をしていたというエピソードをたくさん目にします。景気回復なんて、それこそ個人や一企業がどうにかできる範囲を超えているので、どうにもできません。自分ではどうにもできないことに焦点を当てるのではなく、景気回復後のことに希望を持ち、そこに向けて今できることに焦点を当てているのでしょう。

今、コロナ禍で多くの人が困難な状況にあります。誰もがこの状況を抜け出したいし、不安や不満もありますが、誰かに期待しても限界があります。どうにもできないことに思い悩むことを極力減らし、今の困難な状況にも必ず意味があるということを見出すこと、そしていつになるかはわかりませんが、コロナ禍の終息後にすることなどに希望を描くこと、こうしたことが大事だということをフランクルの分析から見出すことができると思います。

チームがあることは素晴らしい

しかしながら、人はそんなに強くないですし、ひとりで自分のマインドを整えることも難しいかもしれません。だから、チームが大事になります。この苦しい状況を通じて、私たちは何を得ているのか、コロナ禍が収束したらどういうことに取り組むのか、そのために今できることはどんなことか、こうしたことをチームで話し合うことは、とても意義があることだと思います。希望でチームをマネジメントするということが大事になるでしょう。

もちろん、今日、明日にでもどうなるかわからないという厳しい状況の人もいると思いますし、そうした人にとってはきれいごとのような話かもしれません。それでも希望を持って、自分ができることに集中することの重要性をフランクルは説いているのではないでしょうか。

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株式会社日本経営
取締役 人事コンサルタント 橋本竜也

1999年に入社後、一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チーム診断の必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究過程や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。


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