調査レポート・コラム

従業員満足度調査の効果的活用法とは?

               ~ES調査の限界と注意点~

従業員が満足し、活き活きと働いていればこそ、顧客に最高のサービスが提供でき、ひいては企業業績にも大きな影響を与えるとされ、従業員満足度(Employee Satisfaction:ES)は企業経営の重要なテーマの一つとなっています。

従業員満足度調査のメリット

①従業員満足度の向上が図れる
②魅力的な職場づくりに活かすことができる
③課題の改善を通じて優秀人材の確保や離職防止を図れる
④継続的な実施により人事施策の効果を測定できる
⑤ES重視の会社であることをアピールできる

従業員満足度調査(ES調査)の実施には、上記のように様々なメリットがあります。しかしながら、実際には調査を実施していない企業のほうが圧倒的に多いでしょう。

「不満ばかり表出してしまうリスクがあり、実施することに腰が引けてしまう」
「実施すれば改善が求められるが、調査のやりっぱなしになってしまう恐れがある」
主にこの2つのハードルがあるからです。

特に「従業員満足度調査のやりっぱなしになってしまう恐れ」は、調査結果を活かすことができないという課題です。そこで、ここでは従業員満足度調査の効果的な活用方法について解説します。

従業員満足度調査の活用方法

従業員満足度調査の活用方法は、6つあります。

①継続的に実施し、変化を捉えて先手を打つ
ES調査は、最低年1回、場合によっては半年に1回は実施することを前提にします。新人が入社し、体制が落ち着いてくる時期として、10月に実施する企業が多いようです。

継続的に実施することで、売上や利益、退職率などとの関係性を分析することもできます。例えば、離職防止は企業にとって重要なテーマの一つですが、退職率と調査項目それぞれの関係性が分析できれば、より効果的な対策を打つこともできるでしょう。

また、ある時点での従業員満足度も当然重要ですが、より重要なのは変化に着目することです。もちろん、継続的に向上していくことが理想的ですが、色々な要因で満足度が上がったり、下がったりすることもあります。

変化に着目すると、重点的に改善するべき項目も見えてきます。一般的に得点の低い項目を改善対象にしますが、それに加えて、落ち込みが大きい項目も重点改善項目になります。

②結果を従業員と共有し、ESを重視していることを伝え、理解してもらう
回答した従業員は結果に関心を持っていますから、必ず結果をフィードバックする必要があります。どんな結果でも隠さず、調査結果に対する会社としての見解も加えてフィードバックすれば、従業員の会社に対する信頼感が高まりますし、ともに改善に取り組む機運の醸成も期待できます。最悪なのは調査結果が非公開であることです。不信感しか生まれませんし、今後のアンケートにも協力してもらえなくなるでしょう。

どこまで公開するかが議論になることがありますが、一番多いのは、全社には会社全体の集計結果を公表し、管理職や部門長には部門・部署別の結果まで公表するという方法です。当然、結果はすべて公表したほうがよいのですが、部門・部署別の結果まで公表してしまうと、部門・部署間の優劣の話題になったり、管理職批判的な反応が出る恐れがあるため、このような形が多くなっています。

ただし、できれば自部門の結果も確認できたほうがよいので、所属部門の結果については、部門長が会議などの場でコメントを加えながらフィードバックするなど、何らかの形でフィードバックしたほうがよいでしょう。

③調査結果を社外に公開する
調査結果を自社のホームページや採用情報に公開することも効果的です。従業員満足度の向上に熱心な会社だとか、従業員を大切にしている会社だということを知ってもらうことにつながりますし、結果がよければ採用のアピールにもつながります。

④従業員満足度向上を経営方針に掲げ、モニタリングする
目標売上や目標利益などとともに、目標とするES調査の得点も掲げれば、会社として従業員を大切にし、満足度を重視していることを発信できます。経営目標に掲げる以上、向上に取り組む必要がありますから、調査だけしてやりっぱなしになることを防ぐことにもつながります。

⑤参加型で改善策を立案する
調査結果を踏まえて、人事部や経営企画部等が改善策を立案するというケースも多いですが、現場の実態を踏まえた改善にするために、管理職によるワークショップを実施している企業も多いです。調査結果を従業員にフィードバックしたうえで、いくつかの課題項目に絞って、従業員から改善提案を募るという方法もあります。

テーマが人事や経営施策に関わることが多いため、人事部や経営企画部等が責任を負うことは多くなりますが、経営陣や管理職が「自分たちが責任を負うテーマ」と捉えて、他人事にしないということが重要です。それを前提として、現場の意見も組み入れながら改善策を立案していくことが理想的です。改善策はどこで、どのように立案するのか、改善策の承認はどこで(誰が)するのか、改善策の実行はどのように管理するのかを事前に決めておいてから調査を実施するのがよいでしょう。

⑥改善策の実施効果を検証する
改善策の効果検証のもっともよい方法は、ES調査の継続的な実施です。毎年調査を実施する場合であれば、前年の取り組みの効果を調査結果から分析することができます。調査を毎年リセットするのではなく、前年の取り組みや施策の結果がどのように影響しているかを2回目以降の分析に加えれば、調査→改善立案→改善実行→効果検証のサイクルを自然に継続することができます。

エンゲージメントとは?

最近では、エンゲージメントという言葉がよく聞かれるようになりました。エンゲージメントとは、愛着という意味ですが、従業員と会社の関係性に着目した概念です。シンプルに言えば、従業員がどれくらい会社に愛着を持っているかということになります。昔は帰属意識という言葉がよく聞かれていましたが、ある意味ではそれに近いイメージです(帰属意識よりは従属的な関係性が薄いですが)。エンゲージメントについては、次の二つのアンケート質問が代表的です。

「あなたは、自分の大切な人に自社の商品を積極的に進めたいと思いますか?」
「あなたは、友人や知人が自社に就職することを望んだら、就職することを勧めますか?」

これらの質問は自社に愛着や信頼感を持っていなければ高い点数にはなりませんので、確かに重要な項目です。エンゲージメントサーベイという手法もありますが、ES調査に上記の質問を加えることで、従業員満足度とエンゲージメントを調査することも可能です。

従業員満足度調査の一般的な構成

ES調査は、従業員が働く環境全般についてどれくらい満足しているかを調査します。一般的には、次のようなカテゴリーで調査されます。

理念・方針への共感職場(上司と)の人間関係仕事のやりがい
教育・研修体制職場環境(ハード)待遇・処遇
休日・休暇人事評価の適切性福利厚生

それぞれのカテゴリーにはより細かい設定がありますが、大きな枠組みとしては大体上記の通りで、多くの企業から様々なES調査が販売されていますが、カテゴリー設定や設問内容は、それほど大きくは変わりません。

従業員満足度調査の実施方法

ES調査はアンケート形式で実施することが一般的です。設問数は50問から多くて100問程度でしょう。単純に質問に対して3~7段階で回答してもらう方法と、重要度と満足度を回答してもらう方法があります。

①一般的な単純回答の例

Q:あなたは、上司と良好な関係性を築けていますか?
A:そう思う/ややそう思う/どちらとも言えない/あまりそう思わない/そう思わない

②重要度と満足度を回答する例

Q:あなたは、上司との関係性をどれくらい重視していますか?
A:重視している/やや重視している/どちらとも言えない/あまり重視していない/重視していない

Q:あなたは、上司と良好な関係を気付けていますか?
A:そう思う/ややそう思う/どちらとも言えない/あまりそう思わない/そう思わない

重要度と満足度を回答する方法は、重要度が高く、満足度が低いほど改善の優先順位が高いと分析されるため、一般的な単純回答よりも精緻な分析ができる可能性があります。ただし、次の2点に注意が必要です。

1)質問数が2倍になり、回答が大変
2)本人が重視している項目が、必ずしも総合的な満足に影響しているとは限らない

特に2は重要です。本人が自覚的に重視していることと、無自覚的に重視していることは、必ずしも一致しません。従業員満足度の難しいところは、満足度が低い項目を徹底的に改善しても、総合的な満足度が向上しないこともあるということです。それは、従業員の総合的な満足度は、無自覚的に重視していることや様々な項目の関係性に影響を受けるということを意味しています。そのため、重要度と満足度を両方調査したとしても、手間が増えるほどには効果的な調査にならない場合があります。ですから、自社でES調査を作成する場合には、まずは①の単純回答方式で十分でしょう。

なお、弊社でご提供しているES調査「ES NavigatorⅡ」では、従業員の総合的な満足度と意欲度に影響を与えている設問を企業ごとに特定できるように体系化されていますので、よろしければチェックしてみてください。

従業員満足度調査の限界

ES調査は、従業員の満足度向上のために、現状の満足度を把握して、改善策を立案するために実施する効果的な方法ではありますが、その限界についても知っておいていただきたいと思います。

①多くの企業ではできることは大体やりつくしている

働き方改革なども進み、多くの企業は有給休暇取得率の向上や残業削減などに取り組んでいます。人事評価や給与制度等も整っているところは多く、その人に合った働き方につながる勤務コースの多様化などを取り入れている企業も増えてきました。

結局、ES調査の項目で、対策として考えられる各種の制度や施策は、ほとんどのことは取り組んでいるという場合が多いのです。逆に取り組んでいない制度や施策は、何らかの事情で自社には取り入れられないものなのかもしれません(例えば、工場勤務者のテレワークなど)。

このような場合、調査結果で分かった課題に対して「何をしたらいいのか」という視点で見ると、できることはほとんどやりつくしているということになりがちです。

②制度的な解決策には限界がある

多くの企業で、できることは大体やりつくしているため、ES調査で確認できた課題を制度的なアプローチで改善しようとすると、限界があります。

例えば、有給休暇の取得率が全く一緒のA部門とB部門があったとします。しかも、取得率は80%で非常に良好。ところが、ES調査をしてみると休暇の満足度に対してA部門は満足しているものの、B部門は不満足の割合のほうが多い。これはどういうことでしょうか。有給休暇の制度としては、充実している会社であることは間違いありませんが、満足度には差がある。これは、各部門での休暇の認め方の違いかもしれませんし、申請した時の上司の顔色(A部長はニコニコ、B部長は不満顔など)の違いかもしれません。

つまり、ある一定のレベルまで来ると、「何をしたらいいのか」という制度的なアプローチで改善できることは少なくなり、「どのようにしたらいいのか」という運用面や部下対応などのソフト面の対策のほうが重要になります。

ES調査ではこのソフト面について把握しきるのは難しく、一つの限界と言えますが、改善策を考える際には、制度の導入や見直し以上に、運用や対応面のソフト面の改善が重要だということを知っておいていただくとより実践的な改善策が立案できます。

③管理職が自部門の満足度改善に取り組める範囲が限られている

ES調査の結果は通常、部門・部署別にも分析されますが、それによって管理職が不安を感じたり、心苦しく感じてしまうことがあります。それにも関わらず、管理職が自分の責任で改善できる範囲には限りがあるということが、ES調査の運用上の難しさでもあります。ES調査の一般的なカテゴリーにある、「職場のハード面」「待遇・処遇」「休日・休暇制度」「人事評価の適切性」「福利厚生」といった項目は、満足度が低かったとしても、管理職個人ではどうにもできません。管理職に対しては、自分で改善できる項目に注目するように促すことが大事です。そうしないと「部門別に結果を出したところで、自分にはどうしようもない」と、無責任な受け止め方になってしまいかねません。

④従業員に改善の主体性が生まれにくい

従業員満足度向上は会社の責任であることは間違いありませんが、満足度向上のためには上記の通りソフト面の対応も必要ですし、できれば全従業員の取り組みとしたいところです。しかしながら、どうしても“改善するのは会社の責任”“従業員は要望や不満を伝える側”という構図になってしまいがちです。その要因は次の通りです。

1)設問に自分自身の振る舞いや行動を問う質問がない(常に評価者の立場)
2)会社や上司から結果がフィードバックされる
3)従業員自身がどうにかできる項目がほとんどない

これは仕方がないことですが、ES調査の性質上、従業員は受け身的に結果を捉え、改善を期待する側になってしまいがちです。

どんなものにも長所短所があります。従業員満足度を企業の責任として捉えて、改善向上に取り組むためにES調査を活用することはとても効果的ですが、このような限界もあることを踏まえておいてください。

現場の主体的な改善を促したいならチーム診断が効果的

ES調査は全社を対象とした従業員満足度調査なので、どうしても一人ひとりの関りが薄くなったり、受け身的になったりしますが、対象を自分の「チーム」に限定して調査することで、一人ひとりが主体的に、“自分事”としてチームの改善に取り組むことができます。ここでいうチームとは、協働で仕事をする実質的な単位のことです。

チームの向上を自分事として捉えることにつながるチーム診断のポイントは次の3点です。

①アンケート項目を自分たちが改善できる項目に絞る
給与制度のことなど、自分たちではどうしようもない項目を入れるほど、自分事から遠ざかります。

②リーダーのことを問う質問を入れない
例えば「上司はあなたの話をよく聞いてくれますか」ではなく、「あなたのチームでは、お互いの話をよく聞いていますか」とすることで、“誰かだけの問題”ではなく、“全員の問題”になる。

③診断結果をできる限り同時に、全員にフィードバックする
アンケート結果は回答者のもの。上司から結果をフィードバックされるのではなく、全員同時に、ありのままを共有することで、“自分たちの診断結果”と捉えられるようになります。これにより、改善にも主体性を持って取り組めるようになります。

上記の3点を踏まえることで、リーダーにとってもリーダー批判的な状況に陥るリスクが減りますし、そもそも“全員で取り組む”というマネジメントがしやすくなります。

弊社がご提供する “NaviLight”は、上記のポイントを踏まえたチーム診断Webアンケートシステムです。NaviLightを使えば、チームの活性度などを的確に把握し、特に重点的に取り組むべき項目も知ることができます。

また、ES調査は会社が取り組むべきことを明らかにするもの、チーム診断はチームメンバーが取り組むべきことを明らかにするものとして、うまく使い分けることで、ES調査もより効果的に活用することができます。

チーム診断も取り組んでみたいという方、一人ひとりが自分事としてチームの向上に取り組んでほしいと思われている方は、ぜひご利用ください。15名までの無料トライアルも可能です。

チーム診断では制度的な課題の把握はできませんので、ES調査、チーム診断のメリットを理解したうえで、不足を補い合わせながら、より良い組織づくりに活かしてください。

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株式会社日本経営
取締役 人事コンサルタント 橋本竜也

1999年に入社後、一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チーム診断の必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究過程や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。


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