調査レポート・コラム

コロナ禍で成果をあげるリーダーの特徴

      VUCA時代のリーダーシップスタイル

トピック

1.正解が分からないコロナ禍の取り組み

コロナ以前は、VUCAの時代という言葉が一気に注目を浴びました。VUCAの時代とは、先が見えない変化の激しい現代のことを指しています。こういう時代においては、正解がない、過去の成功体験が通じないため、マネジメントも変化させていく必要があり、当社でもその必要性を強く訴えてきました。

そうした中、今年に入りコロナの脅威が日増しに大きくなり、VUCAの時代と言われてもピンと来なかった人やまだそれほどの危機感を持っていなかった人であっても、まさにVUCAの真っただ中にあるということを実感したのではないでしょうか。

先の見通しが立てにくく、過去の成功体験が通用しない時代。まさにそれが今のコロナ禍ですが、こうした時代おいては、先々の変化について、大まかにいくつかのシナリオを立てつつ、今なすべきことを考え、臨機応変に対応していく必要があります。しかしながら、過去の成功体験が通用しないため、リーダーだけで今なすべきことを考えるのは限界があり、時にその成功体験が思考や行動の足かせになってしまうことすらあります。先の見通しが立ちにくく、過去の成功体験が通用しないという前提に立ってマネジメントを考え直す必要があります。

2.朝令暮改が今は常識!?

当社では中小企業のコンサルティングが多いのですが、創業経営者が健在の企業の幹部からよく「うちの社長は朝令暮改で、決めたこともすぐひっくり返してしまって困る」という話をよく聞きます。私は考えたらすぐ行動するという意味で、朝令暮改の経営者は悪くないと思っているのですが、むしろ今は、朝令暮改ができない経営者は、事業を潰してしまうとさえいえるのではないでしょうか。

ある中堅飲食チェーンの創業経営者は、このコロナ禍にあって矢継ぎ早に指示を出されています。本当にどんどん新たな施策が出てきて、さらには見直されていきます。この企業も業績を大幅に落としているものの、同業他社に比べるとまだ痛手は少ない方です。

考えてみれば、創業経営者は先の見通しが立たない中で時代の流れを読みながら自社の業績を伸ばしてきた方々です。先の見通しが立たない、過去の成功体験が通用しないという前提で事業を作ってきた人にしてみれば、このコロナ禍でも基本的な考え方は変わらないのかもしれません。

おかしなもので、これまで「うちの社長は朝令暮改で困る」といっていたような人が、今は「うちは次々に手を打っている」と自慢したりします。創業経営者のスピリッツは、コロナ禍を生き延びるための大事なヒントかもしれません。

3.コロナ禍が明確にしたできるリーダーと苦戦するリーダー

さて、現場に目を戻してみると、コロナ禍の急速な社会の変化が、できるリーダーと苦戦するリーダーを明確にしてしまった感があります。

変化が激しく、先の見通しが立ちにくい時代であることを前提としてマネジメントを考え、実行してきたリーダーは、チームとしての成果をあげたり、少なくとも次々に手を打ちながら、難局を必死に乗り越えようとしています。

しかし、毎年ある程度の予測が立つという前提でしっかりとした計画を立て、着実にその計画に沿って取り組むようなマネジメントを実践してきたリーダーは苦戦を強いられています。

計画に沿って取り組むこと自体は間違いではないですし、非常に重要ですが、先の見通しが立てにくく、正解はないということを前提としているか、していないかでマネジメントや実践も変わりますし、リーダーシップの発揮も変わります。

計画を立てて、その計画に基づいて実行することが問題ではなく、その計画の前提をどのように設定しているかが重要なところであり、今まさにできるリーダーと苦戦するリーダーを分けてしまっています。では、できるリーダーの思考・行動様式にはどのような特徴があるのでしょうか。これを掘り下げたいと思います。

4.コロナ禍で成果をあげるリーダーの思考・行動様式

(1)正解はないという前提を持つ

これについてはこれまでに延べ続けてきました。「どれだけ考えても最後はやってみないとわからない」、「以前と同じようにやっても同じ結果になるとは限らない」、「どんなに精緻に計画を立てても計画通りにはいかない」といった、正解はないという前提を持っていることが重要です。

逆に苦戦しているリーダーは、必要以上に分析に力を入れたり、細かく計画を練り上げたりして、何とか正解に近づけようとします。正解はないのですから、いつまでたっても正解にはたどり着けません。結局動けなくなってしまうのです。

(2)自ら考え行動する

今なにすべきかを自ら考えて行動する人は、普段からそのようにしてきた人です。これは独断専行ということではありません。「こうしますけど、いいですか?」「これをすれば、こうなると思うので進めますけど、問題ありませんか?」こうした自分の考えの確認のための報・連・相をしてきた人は、自ら考え、独断で動かない思考行動様式ができています。

一方で上層部からの指示を的確に現場に実行させることを自分の役割としてきたリーダーは、思考も行動も停止してしまっています。あげく「うちの会社は意思決定が遅い。いまだに何の指示も来ない。」「ほかの会社はもっといろいろやっているのに、うちは何にも進んでいない。」などと、上層部の指示の遅さを嘆きます。

上層部だってどうしたらよいのかわからないのですから、待っていたって指示は来ません。今は全員経営、総力戦です。誰もが自ら考えることが必要ですが、指示を受けてそれを実行することに徹しているリーダーは苦戦しています。

(3)新たな環境に適用しようとする

急速なリモートワークの拡大や営業手法の変化など、働く環境が急速かつ劇的に変化しています。できるリーダーは、新たな環境でどのようなことができるかを考えます。

苦戦するリーダーは、今までの取り組みを新たな環境でどのように実現するかを考えます。例えば、オンラインミーティングで今までのような会議のやり方を実現するにはどうすればいいのか、といった思考です。無理です。プールでの泳ぎ方でうまく海で泳ぐにはどうすればいいかと考えているようなものです。プールにはプールの泳ぎ方があります。海には海での泳ぎ方があります。

言われてみれば当たり前なのですが、「やり方」にこだわるリーダーは動けません。大事なことは「本質は何か」、「目的は何か」ということにこだわり、やり方は臨機応変に対応するということ。新たな環境での成果のあげ方を考えるのができるリーダーです。

(4)トライ&エラーで行動する

前提として、先の見通しが立てにくく、正解が分からない、過去の成功体験が通用しないのですから、まずはやってみて、うまくいかなければすぐにやり直しながら進まなければなりません。何もしないことが一番のリスクであるのが、今の状況です。できるリーダーは絶対にしてはいけない失敗を見極めつつ、多くのことはまずはやってみて、うまくいかなければ修正するかやり直すというし行動様式で、どんどん物事を進めていきます。

正解を探しているリーダーは、いつまでたっても確信の持てる案が作れず、結局動けません。何も考えていないわけではなくても結局動けなければ、何も成果は出ません。

(5)メンバーの力を借りる

コロナ禍は誰も経験したことがありません。類似の経験者もいません。だからリーダーが答えや妙案を持っているとは限りません。結局、チームメンバー全員が主体者として問題にあたり、考え、チームとして力を発揮しなければ難局を乗り切れないのです。

できるリーダーはそれを知っています。「みんなの力必要だ」「もっとみんなの考えを聞かせてほしい」「自分も不安だ」「自分だけがいいアイデアがあるわけではない。みんなのアイデアが必要だ。」といったことを伝えるなど、どうすればチームメンバーの力を引き出せるかを考えながらマネジメントをします。

「自分が的確に指示を出さなければならない」と考えすぎてしまうリーダーは、ストレスがたまる一方で、なかなか指示が出せません。まさに苦戦するリーダーです。

5.指示・命令型リーダーの苦戦、そんなリーダーを育て続けた会社の問題

このように見てくると、ある程度先の見通しが立つ中で、失敗を最小にする計画を立て、上層部の方針のもとに部下に実行させるマネジメントをしてきた、指示・命令型のリーダーが苦戦しています。これは本人の問題もありますが、そのようなリーダーを育ててきてしまった会社にも問題があるでしょう。

6.チームとしての力を引き出すマネジメントの必要性

苦戦している指示・命令型のリーダーに対して、コロナ禍で活躍が目立つリーダーは、引き出し型のリーダーと言えます。

自ら考え、行動するという思考様式を持ち合わせながら、自分の限界も知り、自分一人では成しえない成果をチームとして実現しようという考えを持ったリーダーです。引き出し型のリーダーの育成のために、上記の成果をあげるリーダーの思考・行動様式を参考にしていただけたらと思います。

また、当社ではチームパフォーマンスの向上につなげるためのチーム診断ツール“NaviLight”をご提供しています。チーム状態を可視化し、チームパフォーマンスの最大化に向けてリーダーがどこに力を入れてマネジメントをすればいいかをガイドします。

無料でお試しいただくこともできるので、ぜひご利用ください!

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株式会社日本経営
取締役 人事コンサルタント 橋本竜也

1999年に入社後、一貫して企業の人事制度構築、組織風土改革に携わる。理論・経験だけでなく、科学的検証に基づいたES調査、チーム診断の必要性を強く認識し、チーム診断ツールNaviLightをリリース。その研究過程や実施データに基づいた知見も踏まえたコンサルティングを提供している。


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