話題の「人的資本経営」で問われる企業姿勢
人的資本経営とは
人的資本経営とは、従業員を事業のコストではなく、価値を生み出す投資対象としてとらえる考え方のことで、企業価値を高める手法として、投資家が重視しているだけでなく、日本政府も、その要請を強めているテーマでもあります。
求められる背景
人的資本経営に注目が集まる背景としては、ステークホルダーが企業を評価する観点として重要視している要素の頭文字をとったESG投資(Environment (環境)、Social (社会)、Governance (ガバナンス) )、が近年重視される中で、人的資本は「社会」と「ガバナンス」に含まれ、人材への投資状況が企業の成長性を評価する判断ポイントとなっている点があげられます。
しかし、もう一つ重要な視点として「日本」の国際競争力という視点での「焦り」「危機感」も見え隠れするのがこの「人的資本経営」というテーマです。
世界最低水準の日本企業の従業員エンゲージメント
エンゲージメントとは「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」のことを指しますが、この水準が他国と比較して低い、つまり「日本企業は個人の成長が会社の成長とつながっておらず、互いに貢献もしあえてもいない」状態であることが示唆されます。
また、次のグラフは「現在の会社で働き続けたいと考える人の割合」ですが、これも諸外国と比較して日本は低水準になっていることが分かります。
一見「継続的に勤める気がなくても、最近はそういうものなのではないか」と思ってしまいますが、留意すべきことは、同調査において日本は「転職意向のある人の割合」「独立・起業志向のある人の割合」でも14か国中最下位だったという点です。
これは、見方を変えると「ロイヤリティは低く、モチベーションも低いが、組織に居続けている人が他国と比較して多い」という見方もできるのではないでしょうか。
企業は人に投資せず、個人も学ばない
経産省「人材未来ビジョン」の掲載された下記2つの調査結果からは、さらに危機感を感じさせるデータが示されています。企業の人材投資は諸外国と比較して低いだけでなく、社員自身も自己投資意欲が低いことが伺えます。
その結果はどうでしょうか?現実、東証一部上場企業の合計時価総額は、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)5社に抜かれ、日本の国際競争力は、この30年で1位から34位に落ちています(2022年時点)。
もう企業任せではいられない
この状態に対して、「政府としても企業が人を大事にしている証拠を数字などで示せるようにしよう」というのが、現在の流れです。
そうすることで、どの会社が人を大事にしているのかを明確にし、企業は優秀な人材を確保し、持続可能な企業成長を目指していくように。
企業と社員の関係の在り方を、入社したらそこで定年を迎えるといった、これまでの「閉鎖的」関係から「選び、選ばれる」関係へと変化させ、企業競争力を上げていこうとする動きは今後も加速するでしょう。
社員は辞めるものだし、人材に投資しても仕方ないと考えている企業は、今後、優秀な人材が入社すらしてくれなくなるかもしれません。
環境変化が速く、未知数である現代において、人材育成という不確実性の高いテーマとどのように向き合うか、企業が社員の働きぶりをみて評価しているように、社員はその判断一つひとつを見て会社に対する向き合い方を判断していることを肝に銘じておきたいですね。