調査レポート・コラム

チャレンジしないのは、やる気がないから?

みんな真面目ではあるのだけど・・・

みんな真面目ではあるのだけど、新しいことに取り組もうとすると動きが遅い、変化に抵抗したり、拒んだりする体質がある、といった話を伺うことがよくあります。これはどんな組織やチームでも多かれ少なかれみられる課題です。こうした課題に対してトップやリーダーは、「やる気がないからではないか」「現状で安心してしまっているのではないか」「危機感がないのではないか」「面倒を増やしたくないのではないか」といったことを言われることがありますが、果たしてそうなのでしょうか?もしそうだとしたら、「まじめで一生懸命」なのにどうしてでしょうか?

結果が分からないことに不安を感じるように脳はできている

脳科学の知見によると、脳は結果が分からないことに対して不安を感じさせるようになっているそうです。これは、人類が生き延び、進化し続けるために必要なことでした。例えば、太古の時代に未知の食べ物に興味津々でパクっと食べてしまったら、死んでしまったかもしれません。見たこともない生物に「かわいい!」と近づいたら、食べられてしまったかもしれません。そんな人ばかりだったら、人類は絶滅してしまっていたかもしれませんね。

未知のものに対しては恐る恐る接して、時には失敗もして(場合によっては誰かの死という犠牲も)、そこから学習しながら人類は進化してきたわけです。この脳の構造は、基本的に現代も変わりません。

現代は知らないものを間違って食べてしまうとか、未知の生物に道端でばったり出会うといったことはまずありませんが、どうなるか分からないことに対して不安を感じるという脳の機能は維持されています。

チャレンジというのは、まさに結果が分からないことに対する取り組みです。もちろん、結果が分からないことでも不安より好奇心が勝ってどんどん取り組む、資質としてチャレンジ精神旺盛の人もいますが、チャレンジに不安を感じる、二の足を踏むというのは、多くの人にとって当たり前の反応なのです。

また、日本人は遺伝子的に不安を感じやすいということも分かってきています。不安を抑え、楽観性を高める脳内ホルモン「セロトニン」の放出やリサイクルに関わる「セロトニントランスポーター」が少ないタイプの人が約65%だという研究結果があります。逆にセロトニントランスポーターが多いタイプ(不安を感じにくい)は約3%、中国は約15%、英国は約23%、南アフリカは約68%だそうですから、いかに日本人は不安を感じやすい人が多いかということが分かります。

チャレンジが嫌というより、失敗が不安

つまり、チャレンジすることに抵抗を示す場合、チャレンジを嫌がっているというよりも、チャレンジによって失敗することに不安を感じているという捉え方をするほうがよいということです。もちろん、新しいことを覚えるのが面倒だとか、仕事が増えたら嫌だとか考える人もいますが、多くの場合は不安が行動を鈍らせてしまいます。

では、どのような不安が考えられるでしょうか。例えば、次のようなことでしょう。

  • 失敗したら他のメンバーからダメな社員だと思われるのではないか
  • うまくいかなかったら評価が下がるのではないか
  • 失敗したら厳しい叱責を受けるのではないか
  • そもそも、これはやっても成果が見込めないのではないか
  • 問題が起きたら重大な損害を与えてしまうのではないか

このように、うまくいくかどうかわからないこと自体の不安や、失敗した場合の不安を感じるので、チャレンジしにくくなります。また、できる限り結果が見通せること、つまり慣れた仕事をしたいという衝動に駆られます。だから人事評価の目標設定などは、できる限り低い目標を立てようとするわけです。

損失回避行動は、利益獲得行動を上回る

さらに、人はリスクをとってハイリターンを得ようとするよりも、できる限り損失を減らす行動をとりやすいことも分かっています。ハイリスク、ハイリターンというととても魅力的に聞こえますが、実際にはそれにワクワクして取り組もうという人は少数でしょう。だからこそ、ハイリスク・ハイリターンに取り組む人は注目されるのです。

ローリスク・ハイリターンであれば利益獲得行動が損失回避行動を上回る可能性も出てきますが、そんなおいしい話はありませんし、それではチャレンジと呼ぶこともないでしょう。ノーリスクということはあり得ないわけですから。

こうなると、チャレンジはほとんど期待できないではないかと思われるかもしれませんが、逆に言えば不安をできる限り減らすことができれば、行動を開放することが期待できます。

不安に対するマネジメントが、チャレンジの土台になる

何かにチャレンジする場合には、まず不安事項を取り除いておくということがチャレンジを促すマネジメントにおいては重要になります。

  1. できる限り成功確率が高まるように準備を整える
  2. うまくいかなかったときの対応策を準備しておく
  3. 今何が起きているかをできる限りオープンに共有する

といったことです。先が見えないことに対して不安は強くなります。危機感はある程度人を動かしますが、不安感は人の行動を抑制してしまいます。そのため、上記のうまくいかなかったときの対応策とともに、今の状況をオープンにすることが重要です。

さらに、仕事ですから、失敗した時の処遇や周囲からの評判も本人にとってはとても不安に感じるものです。人事考課が低くなるのではないか、給料が下がるのではないか、周囲からダメな社員だと思われるのではないかといった不安です。「それが仕事だ!」「甘く考えるな!」と思われる人もいると思いますが、うまくチームを動かしていくためには、これらの不安に対しても何らかの対策を事前に取っておき、本人に伝えておく方が得策です。例えば、「当社は失敗することよりも、チャレンジしないことのほうが問題視される」とか、「たとえ失敗しても、あなたのキャリアに傷をつけるようなことはさせない」と伝えるといったことでしょう。

また、チャレンジするときや新しい仕組みやルールを取り入れるときなどに、ぜひおすすめしたいことがあります。それは、「何が不安かを聞くこと」です。質問を受けたり、意見を聞いたりすることは一般的ですが、意外と「不安なこと」を聞くことはないものです。

チームで取り組むときにメンバーの意見を聞くというプロセスは行動を前向きにするのに効果的ですが、それだけだと不安なことを言い出せず、リーダーは不安を把握できてません。意見や質問を聞くよりも、むしろ不安を聞くほうが大事です。不安なことをきくと、思いもよらないことを不安に感じていたり、誤解により感じなくてもよい不安を持っていたりすることが分かります。どんなことに不安を感じるのか、それを拾い上げて、できる限り不安を潰していくことで、新しいことに対する抵抗感が和らいできます。それがチャレンジの土台になります。

新しいことに取り組むとき、新しい仕組みやルールを取り入れるとき、現状を改革するときなどは、まず不安に耳を傾けるマネジメントを取り入れてみてください。皆さんのチームはもっとチャレンジできるチームになるはずです。


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